Q&A 歯科一般 歯周治療におけるナイトガードの有効性は?|デンタルダイヤモンド 2023年5月号

学術・経営・税務・法律など歯科医院での治療・経営に役立つQ&Aをご紹介いたします。今回は、月刊 デンタルダイヤモンド 2023年5月号より「歯周治療におけるナイトガードの有効性は?」についてです。

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当院では歯に動揺がみられる患者に対して、ナイトガードを装着してもらうことがあります。このような歯周治療におけるナイトガードの使用について、エビデンスの観点から効果があるといえるのでしょうか。  ●神奈川県・L歯科

ナイトガードを歯周治療に使用するというと、外傷を除去するという意味があると思われます。その適応としては、強いブラキシズムを伴う患者で補綴物や修復物がよく壊れてしまうような場合などが考えられます。また、根分岐部病変の改善に影響するという見解もあるようですが、ランダム化比較試験のような信頼性の高い研究で証明されているものはありません。したがって、ナイトガードの歯周治療における効果を直接検証したような情報は限られています。現状はあくまで外傷や動揺の影響という点から考察していきたいと思います。
 歯周治療における固定または咬合調整といったトピックに関して、ヨーロッパ歯周病学会がその治療のガイドラインをシステマティックレビュー1)としてまとめています。動揺歯を連結固定した場合としなかった場合に、それぞれ非外科的歯周治療を受けた場合の結果が比較された2編の研究のうち1編の論文では3年間、もう1編では、2〜32.4年間観察された結果、固定群で8.4%、非固定群では10.1%の歯が喪失しました。この差は有意ではなく、固定により動揺歯の喪失を防ぐことではできないと結論づけられました。しかし、エビデンスの質は高くないとされました。
 また、咬合調整に関しては、3編の論文が取り上げられ、咬合調整はアタッチメントゲインの有意な増加と関連していましたが、プロービングデプスと動揺度に関しては、非咬合調整群と差異がなかったことが示されました。しかしながら、咬合調整を行ったにもかかわらず、動揺度に影響しなかった結果は奇妙な結果です。外傷が関連していた動揺ならば、咬合調整により改善されるはずです。この内容からは、歯周治療における咬合調整の意義ははっきりわかりません。また、2017年の新分類のための国際ワークショップにおいても歯周病と咬合との関連について議論され、外傷性咬合そのものがアタッチメントロスや歯肉退縮を起こすという根拠はないことが示されました2)
 他方、ヒトにおける観察研究では、外傷性咬合は歯周炎の重症度に影響するとされ、動物実験でも歯槽骨の吸収を増加させることが示されました。しかし、ヒトにおいて歯周炎の進行を早めるかどうかに関しては、エビデンスがないとされました。
 ここで理解しなければいけないことは、歯周炎と外傷性咬合は別物であるということです。言い換えれば、歯周炎の進行に必ず咬合がかかわるわけではありません。外傷性咬合は歯周炎の進行にかかわることがある要因の1つにすぎません。したがって、早期接触や咬頭干渉を伴い、さらに歯の動揺(とくに進行性の動揺)が生じ、X線画像上でも歯根膜腔の拡大や漏斗状の骨吸収が見られた場合は外傷の関与を疑って咬合治療を適用してよいと思いますが、一般論として歯周炎の治療に全面的に咬合治療を併用しなければいけない理由はまったくありません。
 ときどき、商業誌などで「歯周治療はプラークコントロールと力のコントロールの両輪から成り立つ」なる文言を聞くことがありますが、これは残念ながらエビデンスのない話です。付け加えると咬合調整で歯周病を予防できるというエビデンスもまったくないので、咬合治療はあきらかに外傷がある場合の治療という位置付けで考えるべきです。
 これらのエビデンスレベルや最新のコンセンサスを踏まえると、一般論としては歯周治療にナイトガードを適用する意義はないといえます。強いブラキシズムを伴う場合に関しては、ケースによっては適用される場合もあるかもしれませんが、まだ十分なエビデンスが揃っていないので、個人の判断で考えてください。


【参考文献】

1)Herrera D, Sanz M, Kebschull M, Jepsen S, Sculean A, Berglundh T, Papapanou PN, Chapple I, Tonetti MS; EFP Workshop Participants and Methodological Consultant: Treatment of stage IV periodontitis: The EFP S3 level clinical practice guideline. J Clin Periodontol, 49, Suppl 24: 4-71, 2022. doi: 10.1111/jcpe.13639.
2)Jepsen S, Caton JG, Albandar JM, Bissada NF, Bouchard P, Cortellini P, Demirel K, de Sanctis M, Ercoli C, Fan J, Geurs NC, Hughes FJ, Jin L, Kantarci A, Lalla E, Madianos PN, Matthews D, McGuire MK, Mills MP, Preshaw PM, Reynolds MA, Sculean A, Susin C, West NX, Yamazaki K.Periodontal manifestations of systemic diseases and developmental and acquired conditions: Consensus report of workgroup 3 of the 2017 World Workshop on the Classification of Periodontal and Peri-Implant Diseases and Conditions. J Periodontol, 89, Suppl 1: S237-S248, 2018. doi: 10.1002/JPER.17-0733.PMID: 29926943 Review.

関野 愉
●日本歯科大学生命歯学部 歯周病学講座

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