Q&A 歯科一般 自臭症が疑われる患者への対応|デンタルダイヤモンド 2023年2月号

学術・経営・税務・法律など歯科医院での治療・経営に役立つQ&Aをご紹介いたします。今回は、月刊 デンタルダイヤモンド 2023年2月号より「自臭症が疑われる患者への対応」についてです。

自臭症が疑われる患者が来院しました。対応したかぎり、極度に臭気を発しているわけではないのですが、本人が非常に気にしている様子です。どのような検査、診断により納得を得ればよいでしょうか。              静岡県・R歯科クリニック

自臭症の多くは、官能検査(歯科医師が患者の呼気を直に嗅いで判定する方法)で臭いをほとんど感知できません。また、官能検査を受けることを嫌がる患者もいます。そもそも、自分の発する呼気が周りの人を不快にさせていることを悩んで来院したのですから当然です。そのときは無理せず対応してください。それに、コロナ禍では官能検査の実施が難しいこともあるかもしれません。
 自臭症は2つのタイプに分かれます(表1)。対応の大半はカウンセリングです。患者は大なり小なり精神的な問題を抱えているので、通常のコミュニケーションを苦手とします。そこで、以下のようなカウンセリングの基本を忘れないことが重要です。

表❶ 自臭症の2つのタイプ
表❶ 自臭症の2つのタイプ

1)受容

 口臭の悩みが相談できる場所であるという気持ちにさせましょう。診療室では口臭を発してもよいと思わせることです。医療者は意見を伝えず、善し悪しの評価をしません。加えて、アドバイスも控えます。「臭っていませんよ」という説明で始めると、信頼関係は築けません。実際、患者にだけ感知できる臭いがあるかもしれないのです。

2)認知

 口臭に対する柔軟な思考を患者にもたせるようにします。他人を不快にしているという思いへのこだわりを少しでも和らげるようにしましょう。「自分の息は臭う!」という観念が不合理であるということを少しでも理解できれば、心に余裕がでます。

3)支持

 患者と医療者が話し合いながら、一緒に悩みごとを解決する方向へと導きます。解決策は医療者から与えられるのではないことを理解してもらい、医療者は解決する能力を高めるためのアドバイスをするよう心がけます。筆者は、「周囲を悩ますレベルではない」という姿勢をベースに、患者と根気よく付き合うつもりで、「なぜ臭うのか正直わかりませんが、これから一緒に悩み、解決しましょう」と説明してから対応しています。
 心身医学の分野には、「各種の検査を行っても、医学的に説明できない症状」「身体症状が持続するが、対応する医学的所見に乏しく、主観的訴えと客観的評価の乖離が大きい疾患群」という概念があります。そのような症状に対しては、「治療よりもマネジメントに主眼をおく」「患者の強い苦痛を理解する」「ストレスとの関連性の指摘は無効となることが多い」「重篤な身体疾患ではないことを保証しつつ現実生活の対処法に焦点を当てる」「寛解は稀であるが経年により軽快することもあるため長年付き合っていく」「医療者は患者とはかかわりたくない思いを抑えるよう努める」などの対処法が挙げられています。これらは、自臭症への対応にも当てはまる部分があるでしょう。

 自臭症患者への対処法に王道はありません。疾患として取り扱われるようなったのは最近で、科学的な研究成果もほとんどないのが現状です。欧米の歯科関連の雑誌では、「歯科医師はこだわりの強い自臭症患者にはかかわらないほうがよい」とも書かれています。しかし、患者は助けを求めて来院したのです。成功例、失敗例を積み重ねて、共通項を探りながら、根気よく付き合うのが医療人としての務めではないでしょうか。

森田 学
●岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
予防歯科学分野

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