Q&A 経営 賃金のデジタル払いに おけるメリットと注意点|デンタルダイヤモンド 2023年3月号

学術・経営・税務・法律など歯科医院での治療・経営に役立つQ&Aをご紹介いたします。今回は、月刊 デンタルダイヤモンド 2023年3月号より「賃金のデジタル払いにおけるメリットと注意点」についてです。

賃金のデジタル払いについての報道を耳にしました。歯科医院に導入可能でしょうか。また、メリットや注意点を教えてください。 ●東京都・T歯科クリニック

1.賃金のデジタル払いとは

 現在、賃金の支払いの多くは銀行口座への振り込みによって行われていることが多いと思います。しかし、労働基準法第24条においては、通貨払い、つまり、現金払いを原則とする旨が記載されているため、銀行口座への振り込みも労働者の同意を得たうえで例外措置として認められているという位置づけとなります。
 そしてこのたび、例外措置の新たな選択肢として、デジタル払い、すなわち資金移動業者と呼ばれる事業者の口座を利用した賃金の支払いが認められることになりました。
 背景には、スマートフォン内のアプリを利用したキャッシュレス決済や送金が広く使われるようになったことなどがあり、今後も広がるであろう多様なニーズに対応するための措置といえるでしょう。
 なお、2023年4月1日から、賃金支払いの引き受け手となる資金移動業者の指定申請受付が開始されますが、どの事業者でも利用できるわけではなく、厚生労働省が定める基準を満たす事業者のみが認められることになります。したがって、実際に資金移動業者の決定が行われ、口座活用が一般的になるのはもう少し先になるでしょう。
 デジタル払いに関しては、労働者が希望した場合にのみ対応可能とされています。したがって、歯科医院側の方針変更により、歯科医院側から一方的に指定してデジタル払いに移行することはできません。賃金支払い方法の選択肢の1つとして提示するものであることから、労働者に対しては現金支払いのほか、労働基準法上は現在例外として認められている銀行口座、証券総合口座への振り込み方法と併せて、資金移動業者への振り込みも可能であることを提示するということです。

2.メリット

 デジタル払いを導入する際の歯科医院側のメリットは、現在のところあまり多くありませんが、銀行口座から資金移動業者に変わることで、賃金を振り込む際の支払い手数料が低減する可能性があるでしょう。
 また、スマートフォン等での決済を頻繁に利用するスタッフにとっては喜ばしいことであり、今後、デジタル払いを希望するスタッフの確保が期待できるかもしれません。スタッフにとっては、一定額を資金移動業者へ振り込んでもらえることは、スマホ決済のために銀行口座からチャージする手間が省けることがよい点でしょう。

3.注意点

 注意点は、デジタル払いで利用するアカウントの残高上限が100万円までとなることから、勤務している歯科医師など比較的月額給与の高いスタッフの振り込み方法については検討を要することです。
 対応としては、銀行口座と資金移動業者の2箇所の口座に振り分けて送金することになりますが、複数口座に送金する場合の事務作業が増えることになります。現在でも、複数の銀行口座への賃金支払いを認めている歯科医院もあるかと思いますが、銀行+銀行から銀行+資金移動業者となっても認めるかどうかを考えておく必要があるでしょう。
 また、銀行口座の場合は銀行の倒産に対して預金の一定額の保護や、不正送金等に対する厳重な取り組みやアナウンスが行われていますが、資金移動業者の場合は、セキュリティ対策がどのように行われるのか、口座に不正にアクセスされた場合の口座や残高の保全に関する内容が確立されていないことなどから、慎重な対応が必要と思います。

 デジタル払いが一般的に活用されるまでにはまだ時間がかかりますが、社会全体でキャッシュレス決済が一般的になるなかで、歯科医院でも日常に則した取り組みの準備を行うことは必要です。今後の情報に注意深く目を向けるとよいでしょう。

門田 亮
●デンタル・マネジメント・コンサルティング

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