待合室の絵本コンシェルジュ:DHstyle 2023年5月号

歯科衛生士向け月刊誌『DHstyle』より、歯科医院の待合室にぴったりの素敵な絵本をご紹介いたします。今回は、『大ピンチずかん』です。

『大ピンチずかん』

 出会い・ひらめき・セールスマン……。世の中には突然やって来るものがたくさんあります。ピンチもまた、ある日突然私たちを襲うものの1つですね。今月は、ピンチに陥ったときにも慌てず対処できるように、日常に潜むピンチについて解説した『大ピンチずかん』を紹介します。笑いと癒しが満載のとびきり楽しい絵本です。

 ピンチの図鑑といわれても、イメージが湧かないかもしれませんが、そんなときはまず表紙の絵をご覧ください。牛乳をこぼして必死の形相を見せる少年……。
 「どうしよう? もったいない!! 叱られるかも!! 雑巾はどこだ?」
 焦ってパニックになる様子が目に浮かぶようです。本書はこのようなよくあるピンチについて、発生度合いや困窮レベルを☆の数や数値で表しつつ、類似例や対策なども示しながら、詳しい説明を加えています。
 このように書くと、お堅い学習図鑑風の絵本だと思うかもしれませんが、決してそうではありません。作者は、ユーモアたっぷりの世界観とユニークな切り口が魅力の作家・鈴木のりたけさんですから、解説もそんじょそこらの図鑑とはひと味もふた味も違います。
 たとえば、パンが黒焦げになるというピンチで、「黒ゴマクリームを塗って見た目をごまかしても、味はごまかせないぞ」と情け容赦ない言葉を浴びせたかと思えば、トイレの紙がないというレベル74の大ピンチでは、“トイレットペーパーの芯を薄く剝がして使う”という秘技を伝授してくれたりします。
 読者は、そんな作者の言葉に喜んだり、絶望したり、大笑いしたりするうちに、ピンチへの耐性を身につけられるでしょう。そうなれば、本書ほど待合室向きの絵本は他にないかもしれません。
 むし歯が痛むのはレベルMAX相当のピンチですが、この絵本の読者なら、そのピンチに怯むことはないはずです。必ずやこの“ピンチ耐性”を武器に、むし歯治療に立ち向かっていくでしょうから。

おひさま堂 書籍部
大橋悦子

作:鈴木のりたけ
出版社:小学館


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