待合室の絵本コンシェルジュ:DHstyle 2023年2月号

歯科衛生士向け月刊誌『DHstyle』より、歯科医院の待合室にぴったりの素敵な絵本をご紹介いたします。今回は、『タコとだいこん』です。

『タコとだいこん』

 あなたは、訳もなく無性に何かを食べたくなったことはありませんか? 不思議な現象ですが、そのような欲求が湧き起こるのは、人間だけではないようです。今月は、そんな状況に陥ったタコのお話『タコとだいこん』を紹介します。

 ある日タコは、大根を食べたいと思いました。理由なんてありません。そもそも、タコが大根を食べるのかどうかもわかりません。でも、食べたいものは食べたいのです。そこでタコは、大根を求めて旅に出ることにしました。
 誰にも見つからないように、夜を待って出発するタコ。月の輝く海を懸命に進むタコの姿には、並々ならぬ決意と少しの哀愁が漂っています。でも、道中は決して楽なものではありませんでした。タコは陸に上がったとたんに猫と出会い、必殺技のタコ墨攻撃で撃退したものの、果てしなく続く丘を「ずるずるずる」と進むその姿は、なおいっそうの哀愁を誘うと同時に、不思議な可笑しさを醸し出しています。
 ここまで読んで、「なんじゃそりゃ?」と笑ったあなた。いいですねぇ、ナンセンス絵本の読み方を心得ていらっしゃる。頭のなかを空っぽにして、理屈抜きにお話の展開を楽しむ。それがナンセンス絵本を楽しむ極意です。そしてそれは、まさに子どもたちの「絵本の楽しみ方」そのものなのです。
 また、この絵本は、絵にも大きな魅力があります。クレヨンで描かれた真っ赤なタコはもちろん、ページのそこかしこに施されたコラージュがとても楽しく、見応えがあります。
 さて、絵本の最後は、無事に大根を食べたタコの満足気な姿で終わります。本来ネタバレは厳に慎むべきですが、すでに表紙が結末を示唆していますので、ご容赦ください。
 さらにいえば、この絵本は結末の如何にかかわらず、ページを開くたびに読者を襲う何ともいえない可笑しみを、無邪気に楽しみたい作品です。患者さんが読めば、きっと治療を待つ間の少しばかりの緊張を和ませてくれることでしょう。

おひさま堂 書籍部
大橋悦子

作:伊佐久美
出版社:講談社


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