【感染制御学ノート】vol.138 新型コロナウイルス(続報35):DHstyle 2023年7月号

vol.138 新型コロナウイルス(続報35)

佐藤法仁 Norito SATOH
岡山大学 副理事(研究・産学共創担当)・URA
立命館大学 総合科学技術研究機構 教授
内閣府 上席科学技術政策フェロー

図❶ 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の形態モデルと電子顕微鏡で見たウイルス画像(青色で示しているもの)。形態モデルと電子顕微鏡写真ではウイルスに色がついているが、実際のウイルスにこのような色がついているわけではない(参考文献1,2)より転載)

Point

  • 2023年5月8日以降から新型コロナウイルス感染症の取り扱いが感染症法上で5類感染症に変更された。
  • 2023年5月5日、世界保健機関(WHO)は、2020年1月から出していた「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の宣言を終了すると発表し、3年3ヵ月にも及ぶ緊急事態は解除された。
おことわり

 本号では、現在流行している「新型コロナウイルス」について取り上げます。執筆時点(2023年5月30日)で判明している点を記載していますが、今後の研究および情勢などで執筆内容との齟齬、あるいは新たな点が明確となる可能性がおおいにあります。その点を考慮して、本号をお読みください。

はじめに

 本シリーズでは、2020年の4月号から新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)と、それが引き起こす新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大に対応し、さまざまな情報をお届けしてきました。この3年以上にもおよぶ期間は、わが国だけではなく、世界と人類史に残る出来事でした。これまでは映画やテレビのなかの話であった「パンデミック」という言葉が、いまを生きる時代に突如として現れるとは、誰もが想像しなかったと思います。筆者自身もそうですし、本シリーズにおける取り上げがこれだけ長引くとは想像していませんでした。
 2023年5月5日、世界保健機関(WHO)は、2020年1月から出していた「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の宣言を終了すると発表し、3年3ヵ月にも及ぶ緊急事態は解除されました。これまでに世界では766,895,075人の感染と6,935,889人の死亡者を出しました3)。わが国でも著名人の感染や死亡などが発表されるとともに、自身や身近な人たちの感染も起こったと思います。「Withコロナ」という言葉も生まれ、コロナ禍でどのように社会・経済生活を続けていくかの知恵を絞る必要に迫られました。
 本年5月から感染症法上の取り扱いが5類となり、また国の対策も緩和されました。マスクが手放せない日々から、一部を除いて個人の任意でマスクを着脱できるようになりました。さらに、施設や飲食における入場・人数制限や、教育などの活動現場での制限も、以前と変わりなく行われるようになりました。

コロナ禍が変えたもの

 前述の社会変化は、「コロナがなくなった」からではありません。現在発生している株の毒性が普通の人に対して大きな影響を与えないことや、ワクチンの普及をはじめとした公衆衛生の向上など、さまざまな要因からです。もしかすると、変異が進んで毒性の高い株が出現するかもしれませんし、新型コロナウイルス以外の感染症が流行する可能性もあります。ただ、今回の3年以上にもおよぶ期間のなかでわれわれが学んできたことは無駄ではなく、次にも活かせるものだと思います。
 たとえば「情報」という点では、本シリーズも3年以上にわたり読者の皆様に情報を発信し続けてきました。編集部のご協力のもと、SNSなどで本シリーズを無料公開してきたのもその1つです。
 コロナ禍においては、さまざまな主張を含めた情報が溢れました。なかには常識では到底考えられない、一般的には受け入れられない情報も散見され、それを真実と信じ込んでしまう人が出る事態も発生しました。とくにSNSは誰もが発信者となるため、科学的根拠がない、あるいは乏しいものや、声の大きい(影響力のある)人・組織の一方的な情報を鵜呑みにすることなどが起こりやすい場でした。これは何も、感染症にかぎった話ではありません。しかし、とくにコロナ禍においては情報の錯綜が世界中でみられ、情報の取り扱いについて考えさせられることが多かったでしょう。
 また、科学的根拠のある情報には、専門性が求められます。同時に、医師や研究者などの肩書きをもつ人が発信した情報でも、それが専門家集団やコロナ対策にあたっている集団においてどう捉えられているかという点で、信頼度が異なる場合もあります。このような情報の取り扱いにおいて、われわれ専門家や読者の多くを占める歯科医療従事者のみなさんは、慎重な対応が求められます。
 次に「Afterコロナ」の観点からは、「日常生活に戻る」という言葉が使われてきましたが、「日常生活を築き上げていく」と表現したほうが適切かもしれません。「コロナ禍以前に戻す」という視点は、これまでの3年にも及ぶ期間をなかったことにしてしまいかねません。
 3年以上におよぶコロナ禍で制限や不自由は発生しましたが、社会生活を大きく変えるきっかけにもなりました。デジタル化(電子化)の推進はその代表といえますし、これにより非効率・非生産的な従来の慣習や常識の多くが撤廃されたのも事実です。また、時差通勤やテレワーク(在宅勤務含む)などは、働き方改革にも繫がりました。それらを「戻す」というのは、あまりにも短絡的ではないでしょうか。
 たとえば、デスク上に置かれている感染防止用のアクリル板は、パーテーションとしても使用できます。オンライン会議が日常化した現代社会において、間仕切りや会話の拡散防止などにも一役買うでしょう。「戻す」ことが必ずしもよいとは考えず、Afterコロナの社会をどのように築き上げていくのかという視点が大切だと思います。

表❶ 新型コロナウイルス感染症を巡るこれまでの経緯(参考文献4,5)より引用改変)

おわりに

 とくに、歯科は飛沫感染のリスクがある医療現場です。そのようななかでも、歯科(口腔)に関することは、コロナ禍に関係なく喫緊のものとして即時対応する必要もあったと思います。この3年以上の間、歯科医療を支えていただいた読者のみなさんに、心から敬意と御礼を申し上げます。感染制御にかかわる執筆の機会をいただいている筆者としては、読者のみなさんに感染対策などをより深く、かつ最新の情報を伝えるよい期間であったと、ポジティブに捉えています。
 また、歯科医療現場のデジタル化など、次世代の歯科医院経営などの面においても、より進んだ期間になったことでしょう。歯科医療従事者のスキルやこれからのキャリアパスなどを鑑みて、このコロナ禍の3年間をプラスと捉え、皆様が歯科医療従事者としての道をさらに切り拓いていけることを願っています。
 本シリーズで新型コロナウイルスについて取り上げるのは、今号でいったん終了とし、次号から改めて、読者の皆様に役立つさまざまな病原微生物の情報を紹介していく予定です。二度と新型コロナウイルスを取り上げることのないよう願いつつ、歯科医療従事者のみなさんのご健勝を、心から祈願しています。

参考文献

1)Centers for Disease Control and Prevention(CDC):
Public Health Image Library. ID#23312, 2020.
2)CDC:Public Health Image Library. ID#23354, 2020.
3)World Health Organization:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)WHO公式情報特設ページ.
https://extranet.who.int/kobe_centre/ja/covid
4)厚生労働省:令和3年版厚生労働白書 -新型コロナウイルス感染症と社会保障-.厚生労働省,2021
https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/20/backdata/8-3-1.html
5)厚生労働省:令和4年版厚生労働白書 -社会保障を支える人材の確保-.厚生労働省,2022.
https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/21/backdata/02-08-03-01.html
(参考文献のURLは2023年6月5日最終アクセス)

https://www.dental-diamond.co.jp/item/1143