新型コロナが5類に移行する理由|感染制御学ノート|vol.137:DHstyle 2023年6月号

vol.137 新型コロナウイルス(続報34)

佐藤法仁 Norito SATOH
岡山大学 副理事(研究・産学共創担当)・URA
立命館大学 総合科学技術研究機構 教授
内閣府 上席科学技術政策フェロー

図❶ 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の形態モデルと電子顕微鏡で見たウイルス画像(青色で示しているもの)。形態モデルと電子顕微鏡写真ではウイルスに色がついているが、実際のウイルスにこのような色がついているわけではない(参考文献1,2)より転載)

Point

  • 2023年5月8日以降から、新型コロナウイルス感染症の取り扱いが感染症法上で5類感染症に変更された。
  • これに伴い、移行期を含めてさまざまな取り組みなどが変更される。
  • 外出自粛は要請せず、個人の判断となる。
  • 医療費や検査費の1~3割が自己負担となるが、入院医療費や新型コロナウイルス治療薬の費用は期限を区切って対応する(治療薬は全額補助)。
  • ワクチン接種の費用は引き続き、無料である。
おことわり

 

本号では、現在流行している「新型コロナウイルス」について取り上げます。

執筆時(2023年4月28日)で判明している点を記載していますが、今後の研究および情勢などで執筆内容との齟齬、あるいは新たな点が明確となる可能性がおおいにあります。

その点を考慮して、本号をお読みください。

はじめに

本シリーズでは2020年の4月号から、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とそれが引き起こす新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大に対応し、さまざまな情報をお届けしてきました。

前号3)では、5月8日以降に感染症法上の位置づけが5類感染症へと変更される点について、とくに基本的な方針を紹介しました。その後、4月27日に政府の新型コロナウイルス感染症対策本部が、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」を5月8日に廃止し、5類感染症とすることを決定しました4)。今回は、どのように変わったのかを簡潔に紹介します。

なぜ5類感染症に移行するのか

まず、「なぜ5類感染症に移行するのか」という基本的な点についてですが、これまでのコロナ禍において、多くの研究やデータの蓄積などによって、効果的・効率的な対策や診断・治療などが見出されてきました。また、立て続けにさまざまな変異株が出現していましたが、現在はオミクロン株の亜系統は出現しているものの、オミクロン株自体の支配的な状況が続いています。

そのため、病原性が大きく異なる変異株の出現は認められません5)。もちろん、経済活動への対応も含まれていますが、現時点でこれまでのような徹底した対策を講じる必要はないという総合的な判断のもと、5類感染症へ移行することとなっています。

5類感染症での扱いに関するQ&A

Q1:発生状況の把握は?

A1:これまでは法律に基づき、届出・患者数・死亡者数などの総数を毎日集計のうえ公表していました。また、医療提供の状況も自治体の報告で把握していました。今後は定点医療機関からの報告となり、毎週月曜日から日曜日までの患者数を公表するかたちに変わります5)

Q2:医療体制は?

A2:これまでは、行政によって入院措置などを講じられる強い関与がなされてきました。また、かぎられた医療機関による特別な対応も行われてきましたが、今後は幅広い医療機関で、自律的に通常の対応を行えるようになります。ただし、入院に関しては、本年9月末までの移行計画を都道府県で策定し、段階的に行われることになっています5)

Q3:感染者の行動は?

A3:これまでは法律に基づき、行政が感染者の入院措置・勧告、外出自粛(自宅待機)を要請してきました。今後は一律に外出自粛は要請せず、政府が提供する情報を基に個人で判断することになります5)

Q4:病院などを受診する際の費用は?

A4:これまでは公費支援がなされてきましたが、今後は医療費や検査費の1~3割が自己負担となります。ただし、入院医療費や新型コロナウイルス感染症治療薬の費用については、期限を区切って軽減することになっています5,a)

Q5:ワクチンは自己負担なのか?

A6:これまでは予防接種法に基づき、特例臨時接種というかたちで無料でワクチン接種を受けられていました。5類感染症に移行しても、本年度は自己負担なしの無料となっています。なお、高齢者などの重症化リスクが高い人は年2回(5月からと9月から)、それ以外(5歳以上のすべて)の人は年1回(9月から)となる予定です5)

おわりに

今回の5類感染症への移行は、新型コロナウイルスがなくなったために実施されるわけではありません。そのため、事業者の判断でマスクの着用要請などの対策を講じることもできます。主体は個人ですが、社会にはさまざまな人がともに生活しています。

それらの点を考慮しつつ、とくに医療従事者のみなさんは、正しい情報のもとで適切な判断と業務を行っていただければ幸いです。

>>【感染制御学ノート】vol.136 新型コロナウイルス(続報33):DHstyle 2023年5月号

>>【感染制御学ノート】vol.135 新型コロナウイルス(続報32):DHstyle 2023年4月号

参考文献

1)Centers for Disease Control and Prevention(CDC):Public Health Image Library. ID#23312, 2020.
2)CDC:Public Health Image Library. ID#23354, 2020.
3)佐藤法仁:感染制御学ノート vol.136新型コロナウイルス(続報33).DHstyle,17(5):78-79,2023.
4)厚生労働省:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る新型インフルエンザ等感染症から5類感染症への移行について.厚生労働省,2023.https://www.mhlw.go.jp/content/001091810.pdf
5)厚生労働省:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染症法上の位置づけについて(参考資料).厚生労働省,2023.https://www.mhlw.go.jp/content/001091819.pdf
(参考文献のURLは2023年4月28日最終アクセス)

 

 

言葉の窓

a)入院医療費は、原則2万円、新型コロナウイルス治療薬は全額補助となっています4)

>>DHstyle 2023年6月号の購入はこちら