【感染制御学ノート】vol.135 新型コロナウイルス(続報32):DHstyle 2023年4月号

vol.135 新型コロナウイルス(続報32)

佐藤法仁 Norito SATOH
岡山大学 副理事(研究・産学共創担当)・URA
立命館大学 総合科学技術研究機構 教授
内閣府 上席科学技術政策フェロー

図❶ 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の形態モデルと電子顕微鏡で見たウイルス画像(青色で示しているもの)。形態モデルと電子顕微鏡写真ではウイルスに色がついているが、実際のウイルスにこのような色がついているわけではない(参考文献1,2)より転載)

Point

  • 国は、2023年3月13日以降のマスク着用の考え方を公表している。
  • 個人の主体的な選択を尊重し、着用は個人の判断に委ねることになっている。
  • ただし、「着用が有効な場面」や「症状がある場合」、「医療機関や高齢者施設などにおける対応」なども示されている。
  • 事業者が感染対策上、または事業上の理由などによって、その場を利用する人や従業員に対してマスクの着用を求めることは許容されている。
  • 児童・生徒などの学校園でのマスク着用の有無は、保護者と学校関係者の情報共有も大切である。
おことわり

 本号では、現在流行している「新型コロナウイルス」について取り上げます。執筆時点(2023年3月3日)で判明している点を記載していますが、今後の研究および情勢などで執筆内容との齟齬、あるいは新たな点が明確となる可能性がおおいにあります。その点を考慮して、本号をお読みください。

はじめに

 本シリーズでは、2020年の4月号から新型コロナウイルス(SARS-CoV-)と、それが引き起こす新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大に対応し、さまざまな情報をお届けしてきました。この冬はインフルエンザとの同時流行などが懸念されたものの、深刻な感染拡大は見受けられませんでした。また、新型コロナウイルス感染症の感染法上の分類を5類に引き下げるなどの動きがあり、取り組みについても変更点が出てきています。
 本号では、国から発表された3月13日以降のマスク着用の考え方について、紹介します。

2023年3月13日以降のマスク着用の考え方

 新型コロナウイルス感染症の流行拡大に伴い、ここ数年間はマスクが手放せない人も多かったと思います。また、生活において、マスクの着用が身だしなみの1つとなっている方もいるかもしれません。
 そもそも、マスクを着用する目的は、会話や咳の際に自分の感染性粒子を飛ばさないようにして他者を感染させないこと、周囲の感染性粒子を吸い込まないようにすることです。2020年6月以降、当時は病原性の高い変異株などが感染拡大しており、新型コロナウイルスワクチンの供給前、あるいは途中でした。そのため、できるかぎり感染機会を低減するために、マスクの常時着用が推奨されてきました。状況が改善されつつあるなかで、2022年5月24日には、国から野外でのマスクの着用は状況に応じて不要であることを示しています3)
 このような経緯のなか、さらに国の方針として2023年3月13日以降は個人の主体的な選択を尊重し、マスク着用は個人の判断に委ねられることになりました4)。個人の判断で着用を決めることになりますが、着用の好き嫌いではなく、感染対策の判断を行ううえでの情報は必要となると思います。国ではさまざまな場面における考え方を示しています。

1.着用が有効な場面

 医療機関受診時、または高齢者など重症化リスクの高い方が多く入院・生活する医療機関や高齢者施設などへの訪問時、通勤ラッシュ時の混雑した電車やバスに乗車するときなどがマスクの着用に有効な場面です。もちろん、新型コロナウイルス感染症の流行期においては、感染から自身を守るための対策として、マスクの着用が効果的です。

2.症状がある場合

 新型コロナウイルス感染症の症状がある方や検査で陽性となった方、同居する家族などに陽性となった方がいる場合、基本的に感染拡大を防ぐために外出を控えることとなります。その場合に通院などで外出する際は、マスクの着用と混雑を避けることが推奨されています。

3.医療機関や高齢者施設などにおける対応

 とくに高齢者などの重症化リスクが高い方が多く入院・生活する医療機関や高齢者施設などの従事者については、勤務中のマスク着用を推奨しています。

4.事業者における対応

 3.とも関連しますが、事業者が感染対策上または事業上の理由などによって、その場を利用する人や従業員に対し、マスクの着用を求めることは許容されています。なお、現在、各業界団体では感染対策のガイドラインが定められています。今後は、「業種別ガイドライン」の見直しが行われる予定です。

5.保育園・学校における対応

 進学・進級の時期となる新年度ですが、学校教育活動の実施にあたっては、マスクの着用を求めないことを基本としています。ただし、基礎疾患があるなどのさまざまな事情や理由で感染の不安がある児童・生徒に対しては、マスク着用などの適切な配慮を行うとともに、十分な換気をはじめとした感染対策は引き続き行います。また、基礎疾患がない児童・生徒でも、主体的な判断が尊重されるように、マスクの着脱を強制・強要しないよう求められています。
 さらに、保育園などに対しても、子どもの健やかな発育・発達を妨げないよう配慮する必要があり、学校と同様にマスク着用の考え方を周知することが重要です。

マスク着用の有効性に関する研究

 3月13日以降のマスク着用の考え方について紹介しましたが、そもそも、「マスク着用の有効性はどうなのか?」との疑問もあるかと思います。調査研究では、マスクを着用している人は、1週間あたりの感染リスクがマスクを着けていない人よりも0.84倍に低下すること、期間を1週間から2週間にすると0.76倍となり、マスクの着用によって自分が感染しないための効果があるとされています3,5)
 また、コミュニティ全体での調査研究では、マスクの着用をコミュニティ全体で推奨した場合、新規感染者数や入院患者数、死亡者数をそれぞれ減少させる効果があるとの報告6)があります。
 さらに、アメリカの小中学校における15週間の観察研究では、マスクの着用義務をなくした学校と、着用義務を継続した学校の児童やスタッフを比較した結果、着用義務をなくした学校では感染リスクが1,000人あたり44.9人増えたと報告されています3,6,7)
 他方で、デンマークの調査では、人口中のマスクの着用率が低く、かつ感染リスクが比較的高い条件下で実施されたランダム化比較試験においては、1ヵ月間の調査におけるマスクの着用者と非着用者の間での感染リスクの差は認められなかったと報告しています3,8)。これは、感染リスクが高い場において、マスク着用による感染から自分を守る効果が、必ずしも十分ではないともいえます。
 このように、条件などによってマスク着用の有効性は異なることがわかってきています。そのため、3月13日以降のマスク着用の考え方についても、場面や状況に応じたマスクの着用、非着用を推奨しているのです。今後、さらにさまざまな調査研究などが行われ、エビデンスが蓄積されるなかで、より正確な情報が提示されると思います。

おわりに

 今回は、国から発表された3月13日以降のマスク着用の考え方を紹介しました。紹介したとおり、それらは、「マスクを着用することによって自分が感染しないための効果に相当する」としたものや、「自分が感染しないための効果が必ずしも十分ではない」とするものまで、さまざまです。ただ、海外では前述した医療機関や高齢者施設、混雑時などは、わが国と同様にマスクの着用を推奨しているところが多いです3)
 新年度を迎えるこの時期は、新たな出会いなどの人的活動が活発になります。見方を変えると、いままでの親しい仲の人たち以外に、新たな同僚や学友などとの交流機会が増えるなかで、「マスク着用の有無」で軋轢を生みやすいことも予想されます。マスクの着用を推奨される場面があることを前提とし、個人の主体的な選択を尊重し、着用は個人の判断に委ねる点を考慮し、新しい季節を迎えていただければ幸いです。

参考文献


1)Centers for Disease Control and Prevention(CDC): Public Health Image Library, ID#23312, 2020.
2)CDC: Public Health Image Library, ID#23354, 2020.
3)厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード:マスク着用の有効性に関する科学的知見(第116回(令和5年2月8日)新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード).厚生労働省,2023. https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001055263.pdf
4)新型コロナウイルス感染症対策本部:マスク着用の考え方の見直し等について(令和5年2月10日).内閣官房新型コロナウイルス等感染症対策推進室.2023.https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001056912.pdf
5)Li, H., Yuan, K., Sun, YK, et al. Efficacy and practice of facemask use in general population: a systematic review and meta-analysis. Transl Psychiatry, 12, 49(2022). https://www.nature.com/articles/s41398-022-01814-3
6)Ford N., Holmer HK., Chou R, et al: Mask use in community settings in the context of COVID-19: A systematic review of ecological data. EClinicalMedicine, 38: 101024, 2021. https://www.thelancet.com/journals/eclinm/article/PIIS2589-5370(21)00304-7/fulltext
7)Cowger TL., Murray EJ., Clarke J, et al: Lifting Universal Masking in Schools – Covid-19 Incidence among Students and Staff. N Engl J Med, 387(21): 1935-1946, 2022. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36351262/
8)Bundgaard H., Bundgaard JS., Raaschou-Pedersen DET, et al: Effectiveness of Adding a Mask Recommendation to Other Public Health Measures to Prevent SARS-CoV-2 Infection in Danish Mask Wearers : A Randomized Controlled Trial. Ann Intern Med, 174(3): 335-343, 2021. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33205991/

(参考文献のURLは2023年3月3日最終アクセス)

https://www.dental-diamond.co.jp/item/1131