待合室の絵本コンシェルジュ:DHstyle 2023年3月号

歯科衛生士向け月刊誌『DHstyle』より、歯科医院の待合室にぴったりの素敵な絵本をご紹介いたします。今回は、『びんにいれてごらん』です。

『びんにいれてごらん』

 春の日差しが心地よい季節を迎えました。3月の光は、冬のそれとは違い、「もう春だよ~」と人々に呼びかけるような、温かな輝きがありますね。今月はそんな季節を彷彿とさせる、詩情豊かで、温かな輝きを放つ絵本『びんにいれてごらん』を紹介します。

 うさぎのルウェリンは、いろいろなものを瓶に入れて集めることが好きでした。キンポウゲの花、鳥の羽、ハート形の小石……。瓶の中のものはどれも、ルウェリンの宝物でした。だって、瓶の中を覗けば、きれいな景色や楽しかったことが、いつでもすぐに蘇るのですから。
 そんなルウェリンが、ある日空と海がさくらんぼのシロップ色に染まるのを見て、瓶を持ち、海へ走りました。その海で、うさぎの少女エブリンと出会い、彼女に瓶に詰めたさくらんぼのシロップ色の水をプレゼントしました。
 それ以来、2人はいつも一緒に出かけては、瓶にたくさんのものを集めました。不思議なことに、2人一緒なら「雨上がりの空の虹」や「雪が降る前のひんやり湿った風」など、瓶に入るはずがないものまで集めることができたのです。
 ところが、エブリンが急に遠い町へ引っ越すことに……。でも、心配はご無用です。思いがけない方法で、2人の友情は続きます。それがどのような方法か、ぜひ想像しながら読んでみてください。
 この絵本では、言葉が絵を生み、絵が言葉を支えています。たとえば、「さくらんぼのシロップ色」という表現から、どんな情景を想像しますか? その想像に作者の絵を重ねると、最初の想像がより鮮烈で具体的な情景となって、読者の心に響くのではないでしょうか。
 このように“言葉と絵が互いに補完し合っていること”はよい絵本の条件の1つですが、本書には、その条件を満たしてなお余りある「言葉と絵の力」があります。しかも、美しいだけではなく、温もりが伝わる言葉と絵に溢れています。どの季節でも楽しめる作品ですが、とりわけ早春の本棚に並べたい絵本です。


おひさま堂 書籍部
大橋悦子

作:デボラ・マルセロ
訳:なかがわ ちひろ
出版社:光村教育図書


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