【感染制御学ノート】vol.136 新型コロナウイルス(続報33):DHstyle 2023年5月号

vol.136 新型コロナウイルス(続報33)

佐藤法仁 Norito SATOH
岡山大学 副理事(研究・産学共創担当)・URA
立命館大学 総合科学技術研究機構 教授
内閣府 上席科学技術政策フェロー

図❶ 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の形態モデルと電子顕微鏡で見たウイルス画像(青色で示しているもの)。形態モデルと電子顕微鏡写真ではウイルスに色がついているが、実際のウイルスにこのような色がついているわけではない(参考文献1,2)より転載)

Point

  • 2023年5月8日以降から、新型コロナウイルス感染症の取り扱いが感染症法上で5類感染症に変更される。
  • これに伴い、これまでの国の方針として進められてきた対応が変わる。
  • 個人の選択を尊重し、国民の自主的な取り組みをベースにしたものになり、先行して実施されているマスクの着用に続き、通常生活に戻していくことになる。
  • ただし、事業者などの判断によってこれまでの感染対策が講じられる。とくに医療機関や高齢者施設などは配慮が必要である。
おことわり

 本号では、現在流行している「新型コロナウイルス」について取り上げます。執筆時点(2023年4月5日)で判明している点を記載していますが、今後の研究および情勢などで執筆内容との齟齬、あるいは新たな点が明確となる可能性がおおいにあります。その点を考慮して、本号をお読みください。

はじめに

 本シリーズでは2020年の4月号から、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とそれが引き起こす新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大に対応し、さまざまな情報をお届けしてきました。春になりインフルエンザの流行も落ち着き、また新型コロナウイルス感染症自体も下火になりつつあります。個人と社会にとってはたいへんよいことです。今回は、コロナ禍の終息が見え始めた状況下において、わが国の今後の方針がまとめられていますので、紹介します。

2023年5月8日以降の対応

 前号3)で2023年3月13日以降のマスク着用の考え方を紹介しましたが、これは新型コロナウイルス感染症が以前のような流行から下火に向かっているためです。もちろん、科学的な検証(エビデンス)をもとにわが国の状況に鑑みて議論した結果として、方針が打ち出されています。
 法的な面では、5月8日以降から感染症法上の位置づけが5類感染症に変更されます。これによって「法律に基づき行政がさまざまな要請・関与をしていく仕組み」から、「個人の選択を尊重し、国民の自主的な取り組みをベースにしたもの」に変更されます4)。「個人の選択」の解釈については、対応を実施する側からの視点で見るとわかりやすいです。
 現在、3密の回避やソーシャルディスタンス、換気などは新型インフル特措法に基づく対処で進められていますが、これが5月8日以降は廃止されます。また、これまでは業種別ガイドラインa)が作成・運用されてきましたが、これも廃止されて事業者の判断、自主的な取り組みとなります。建物に入る際の検温や消毒液の設置、飛沫物を物理的に遮断するアクリル板やパーテーション(仕切り)などの設置も、国として一律に求めることはなくなります(表14)。これだけでも、コロナ禍での生活環境からだいぶ変わると思います。
 ここで注意しなければいけないのは、「すべて自由」ではないという点です。マスク着用の考え方3)でも紹介したとおり、事業者の判断による点もあります。たとえば病院や高齢者施設などでの3密の回避、マスクの着用などは有効な対応です。さらに手洗いなどの手指衛生は、コロナ禍ではなくとも大切です。
 この数年でさまざまな制限が設けられてきたため、「解放感」が出てきてしまうのは自然だと思います。しかし、基本的な感染対策を続けたい人や必要であると判断する事業者の取り組みを阻害する理由にはなりません。

表❶ 基本的感染対策(現在行われているおもな対応)についての今後の考え方(参考文献4)より引用改変)

おわりに

 今回は、5月8日以降から感染症法上の位置づけが5類感染症に変更されることに伴う、基本的感染対策の考え方を簡潔に紹介しました。一足先に変更されたマスク着用の考え方では、大きな社会的混乱は見受けられませんでしたが、今後、通常の生活に戻っていくなかで混乱が生じるかもしれません。本シリーズでも国の対応の変更や進展などについても逐次紹介し、みなさんの生活や医療従事者としての業務の一助となれば幸いです。

参考文献


1)Centers for Disease Control and Prevention(CDC):Public Health Image Library, ID#23312, 2020.
2)CDC:Public Health Image Library, ID#23354, 2020.
3)佐藤法仁:感染制御学ノート vol.135 新型コロナウイルス(続報㉜).DHstyle,17(4):78-80,2023.
4)厚生労働省:新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付け変更後の基本的感染対策の考え方について(令和5年3月31日).厚生労働省,2023.https://www.mhlw.go.jp/content/001081546.pdf(2023年4月5日最終アクセス)

言葉の窓

a)業種別ガイドラインは、195個の業種ごとに存在し、公開されている(2023年4月5日現在)。https://corona.go.jp/guideline/

https://www.dental-diamond.co.jp/item/1134