【感染制御学ノート】vol.133 新型コロナウイルス(続報30):DHstyle 2023年1月号

vol.133 新型コロナウイルス(続報30)

佐藤法仁 Norito SATOH
岡山大学 副理事(研究・産学共創担当)・URA
立命館大学 総合科学技術研究機構 教授
内閣府 上席科学技術政策フェロー

図❶ 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の形態モデルと電子顕微鏡で見たウイルス画像(青色で示しているもの)。形態モデルと電子顕微鏡写真ではウイルスに色がついているが、実際のウイルスにこのような色がついているわけではない(参考文献1,2)より転載)

Point

  • 2022年11月22日に塩野義製薬株式会社が開発した新型コロナウイルス感染症の飲み薬「ゾコーバ」が緊急承認された。
  • 高熱・強い咳症状・強い咽頭痛などの臨床症状がある人に対して処方できる。
  • 無症状患者、妊婦、授乳中の人には使用できない。
  • 対象年齢は12歳以上である。
  • 併用禁忌が多いため、使用前に確認をしっかりと行う必要がある。
  • 本剤は無償提供である。
  • 緊急承認のため、使用対象を限定した内容で使用される。したがって、国でフォローアップ体制を整備している。
おことわり

 本号では、現在流行している「新型コロナウイルス」について取り上げます。執筆時点(2022年12月2日)で判明している点を記載していますが、今後の研究および情勢などで執筆内容との齟齬、あるいは新たな点が明確となる可能性がおおいにあります。その点を考慮して、本号をお読みください。

はじめに

 本シリーズでは、2020年4月号から新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)と、それが引き起こす新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大に対応し、さまざまな情報をお届けしてきました。冬の到来を受け、季節性インフルエンザとの同時流行の懸念があるとともに、「第8波」としての感染者の増加も心配されます。
 このようななか、2022年11月22日に塩野義製薬株式会社が開発した新型コロナウイルス感染症の飲み薬「ゾコーバ」が緊急承認されました3)。本号では本剤について、わかりやすいようにQ&Aで紹介します。

ゾコーバについてのQ&A

Q1:どのようなときに服用するのか?

A1:新型コロナウイルス感染症の5つの症状である、①鼻水または鼻づまり、②喉の痛み、③咳の呼吸器症状、④熱っぽさまたは発熱、⑤倦怠感(疲労感)への効果を検討した結果、高熱・強い咳症状・強い咽頭痛などの臨床症状がある人に対して、処方を検討することになっています4)

Q2:無症状の患者でも服用できるのか?

A2:無症状の患者は承認審査において認められていないため、有効性と安全性が確認されていません。したがって、無症状の患者への提供は対象外となっています4)

Q3:どのような作用なのか?

A3:ウイルスの複製を抑制する作用があります3)

Q4:変異株にも有効なのか?

A4:実験室の試験においては、従来株とアルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株、オミクロン株に対して有効性が認められています4)

Q5:服用できる年齢は?

A5:12歳以上です。12歳未満の小児などを対象とした臨床試験は実施していません3)

Q6:どれくらい服用するのか?

A6:1錠は125mgです。1日目は3錠(375mg)、2~5日目は1錠を1日1回経口投与します3)

Q7:有効性は?

A7:症状が出てから3日目までに服用した患者において、有効性が推定されています3)

Q8:重症度が高い患者に対しては有効なのか?

A8:重症度が高い患者には有効ではありません3)

Q9:妊婦、あるいは妊娠中は服用できるのか?

A9:妊婦、妊娠中ともに服用できません3)

Q10:授乳中でも服用できるのか?

A10:授乳中は服用しない、あるいは服用中は授乳しないことが望ましいです。本剤はラットの動物実験において乳汁への移行が認められています3)

Q11:副作用はどのようなものがあるのか?

A11:表1に挙げられる副作用が認められていますので、服用後に症状がある場合は服用を中止します。

表❶ ゾコーバ錠と服用(投与)できない薬剤〔併用禁忌〕(参考文献4)より転載)

Q12:服用できない人は?

A12:本剤に対して過敏症の既往歴がある人、さらに表2の薬剤を投与中の患者になります4)

表❷ ゾコーバ錠と服用(投与)できない薬剤〔併用禁忌〕(参考文献4)より転載)

*1)再発または難治性の慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)の用量漸増期
*2)St. John’s Wort(セント・ジョーンズ・ワート)

Q13:市販されているのか?

A13:本剤の所有権は厚生労働省に帰属し、「ゾコーバ登録センター」から認められた医療機関・薬局に配分(無償譲渡)されます。そこから患者に処方されますので、市販されるわけではありません4)

Q14:有料なのか?

A14:本剤は国で買い上げているため、無償提供です。

Q15:ゾコーバ以外に飲み薬はあるのか?

A15:表3に示すように、先行した飲み薬がすでに使用されています。これ以外に、点滴として用いられるレムデシビル(製品名:ベクルリー)が、軽症~重症患者に対して使用されています。また、本来は他の目的で使用されていた薬剤が、新型コロナウイルスに有効として承認を受けて使用としているものもあります。

表❸ おもな新型コロナウイルス感染症用飲み薬

*)リトナビルとニルマトレルビルの2種類の薬剤からなる飲み薬

Q16:フォローアップはないのか?

A16:前述したとおり、ゾコーバは緊急承認であり、使用対象を限定した内容で使用されます。そのため、今後も情報を収集する必要があり、国でフォローアップ体制を整備しています。まず医療機関では、服用後の定期的なフォローアップをお願いしています。製造販売業者には、対象機関における投与実績などを確認し、より安全に本剤を使用できる環境整備を行うとともに、使用の成績に関する調査を行うことになっています4)。これらのフォローアップを実施することでよりよい本剤の運用が可能となります。

おわりに

 今回は、2022年11月22日に緊急承認された新型コロナウイルス感染症の飲み薬「ゾコーバ」について、簡便にQ&Aで紹介しました。新型コロナウイルス感染症に対する有効な手段として用いられることが期待されますが、緊急承認されたものであり、承認時において有効性と安全性に係る情報は限られたものでもあります。そのため、本剤の使用については患者や保護者などに対して十分な説明を行う必要があります。また、記載したように併用禁忌も多いため、使用している薬剤などをしっかりと確認、あるいは医師や薬剤師に情報を提供する必要があります。
 本号でのQ&Aが参考になれば幸いです。

参考文献


1)Centers for Disease Control and Prevention(CDC):Public Health Image Library, ID#23312, 2020.
2)CDC:Public Health Image Library, ID#23227, 2019.
3)厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課:新型コロナウイルス治療薬の緊急承認について.厚生労働省,2022. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_29320.html
4)厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部医薬・生活衛生局総務課:新型コロナウイルス感染症における経口抗ウイルス薬(ゾコーバ錠125mg)の医療機関及び薬局への配分について(事務連絡 令和4年11月22日).厚生労働省,2022. https://www.mhlw.go.jp/content/001015921.pdf

(参考文献のURLは2022年12月2日最終アクセス)

https://www.dental-diamond.co.jp/item/1114