待合室の絵本コンシェルジュ:DHstyle 2023年6月号

歯科衛生士向け月刊誌『DHstyle』より、歯科医院の待合室にぴったりの素敵な絵本をご紹介いたします。今回は、『あおのじかん』です。

ゼネラルデンタルカタログ

『あおのじかん』

 あなたは“逢魔が時”という言葉をご存じですか? 夕暮れどきを指す言葉ですが、“魔物に出逢うとき”という意味もあり、何となく心がザワついたり、一抹の不安がよぎったりすることもある時間帯ですね。

 ところが、そんな逢魔が時をテーマにしながら、そこに潜在する“美しさ”をも描いた絵本があります。イザベル・シムレール作『あおのじかん』です。ページを開けば、美しく豊かな青の世界がひろがります。
 “あおのじかん”とは、「おひさまがしずみ よるがやってくるまでのひととき」のこと。始まりを告げるのは、アオカケスのひと声です。空の青色が、次第に深く濃くなっていくにつれて、コバルトヤドクガエル・アオガラ・スミレサギ・ブルーモンキーといった青い体をもつ生きものたちが夜を迎えていきます。
 もちろん動物だけではなく、矢車菊にホタルブクロ、勿忘草にスミレといった青い花々もまた、昼と夜の狭間で芳しい香りを放っています。なんとエレガントな世界なのでしょう。
 でも、お話はただそれだけ。特別な事件も予想外の展開もありません。昼とも夜ともつかない曖昧な“あおのじかん”は、ただただ大河のごとくゆっくりと流れていくのです。そして、その一瞬一瞬を切り取った本書の絵は、どれも高い芸術性をもち、世界はこんなにも青く美しいのだと教えてくれます。
 青の美しさに気づいたら、次はもう1度最初からページをめくってみてください。今度は、青い生きものたちの息遣いや、自然の音が聞こえてきませんか? 森のなかに、氷原に、時には深海に、無音ではないけれど雑音のない、静かな青い音の世界が浮かび上がってきます。
 本書は、そんなふうに読むたびに印象が変わる不思議な作品です。青の美しさに癒しを感じたり、逢魔が時を思って心が騒いだり……。
 さて、あなたが勤める歯科医院の待合室で、本書はいったいどんな顔を見せてくれるでしょうか。読者の感想をうかがうのが、楽しみになる絵本ですね。

おひさま堂 書籍部
大橋悦子

文・絵:イザベル・シムレール
出版社:岩波書店


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