本のエッセンス|はじめに:なぜ自費率50%の歯科医院をめざすのか

本のエッセンスは、書籍の「はじめに」や「刊行に寄せて」に詰まっています。

この連載では、編集委員や著者が伝えたいことを端的にお届けするべく、おすすめ本の「はじめに」や「刊行に寄せて」、「もくじ」をご紹介します。

今回は、『なぜ自費率50%の歯科医院をめざすのか』です。

はじめに

歯科医療従事者が受けたい歯科医療とは?

 みなさんは、自分の歯の治療を受ける際に、保険診療と自費診療のどちらを選択しますか。

たとえば、昔入れたメタルインレーが脱離し、作り直しが必要になった際、同じく保険のメタルインレーにしますか。あるいは、二ケイ酸リチウムやジルコニアなどの自費のセラミックインレーにしますか。たとえば、自分の右上1番が外傷で抜歯しなければならなくなった場合、欠損補綴治療は何を選択しますか。

保険のレジン前装ブリッジにしますか?
あるいは、ジルコニアブリッジ?
はたまたインプラント?

歯科医療にかかわる多くの人が、自分の歯の治療には自費診療を選択するのではないでしょうか。
自費診療を選択する理由として、自分の歯科医院や知り合いの先生であれば、安く治療してもらえるということもあるかもしれません。

しかし、最大の理由は、「保険診療よりも自費診療のほうが、質の高い歯科医療である」と知っているからではないでしょうか。

よい治療を提供できないジレンマ

 自分が受けたい治療が自費診療であるにもかかわらず、日本の歯科医院の多くは保険診療を主に提供しています。

2019年に歯科医師向け情報サイトWHITE CROSSが行ったアンケート調査(全113件)では、自費率20%未満と回答した歯科医院が約50%を占めています。自費率50%以上と回答した医院は、全体の18.6%にすぎませんでした。

当然、日本は国民皆保険制度であるため、皆保険制度でない諸外国と比べて、「いつでもどこでも安価に歯科治療を受けることができる」というのは、大きな利点であることは間違いありません。しかし、「保険診療が本当に予知性の高い治療かどうか?」と疑問を感じながら治療している先生や、自分は受けたくないような予知性に乏しい治療を毎日行うことにストレスを感じている先生も、なかにはいるのではないでしょうか。

また、保険診療では開業している各都道府県の平均点数を大幅に上回ると指導を受ける可能性があるため、収入を増やすためには多くの患者を診る(レセプト枚数を増やす)必要があり、結果的に1 人の治療時間を減らしたり、診療時間を延ばしたり、あるいは休診日を減らしたりする必要があるでしょう。

そんな、ストレスフルな仕事から脱却しませんか?

 本書は、単に「自費率を向上させて収入を増やしましょう」という小手先だけのテクニックの紹介本ではありません。本書の目的は、

「質の高い自費診療を選択する患者さんが増え、国民のお口の健康が長期にわたって保たれ、歯科医師も適切なワークライフバランスを保ちながら、質が高く気持ちのよい仕事をして、スタッフの福利厚生を厚くしながらも、安定した収入を得られるようになること」です。

「そんなうまい話があるわけない」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、何ごともまずは理想的な状態をイメージできなければ、決して実現できないと思っています。

そして、患者・スタッフ・自分の三方よしとするためには、どんなシステムを構築すれば実現できるのかを徹底的に考えることで、解決の糸口が見つかると信じています。

実際、筆者は2018年9月に東京都世田谷区で開業し、開業してから現在までの平均自費率は74.7%を維持し、いちばん低い月でも55%を下回ったことはありません。2年目に運よく同ビル内でテナントが空いたため、ユニット3台から8台に拡張できました。開業3年目で法人化し、スタッフの労務環境を整備し、福利厚生を充実させました。

また、法人化から半年後にはコロナ禍という逆風を逆手にとって、渋谷区にインプラント・審美治療に特化した分院を出すことができました。

本書を読んで、「自分が本当にやりたい歯科医療を行い、結果的に自費率が50%に近づいていく」。そんな先生が増えることを願っています。

2022年3月
丸尾勝一郎

CONTENTS

https://www.dental-diamond.co.jp/item/1067

著者プロフィール

丸尾勝一郎(まるお かついちろう)

歯科医師(インプラント専門医)
医療法人社団プライムエレメント理事長・株式会社DigiZ創業者・神奈川歯科大学特任准教授

1980年、東京生まれ。歯科医師であり研究者であった祖父に憧れ、歯科医師を目指す。東京医科歯科大学卒業。同大学院にて博士号取得。岩手医科大学を経て、2012年に世界20名枠のITIスカラーシッププログラムに選抜されハーバード大学歯学部インプラント科に留学。インプラントの世界的権威であるDr.German Gallucciとともにシステマティックレビューを執筆。留学中にボストン日本人研究会に優秀プレゼンワード受賞(「内容と理解」部門)。帰国後、神奈川歯科大学にて病院長賞を2年連続受賞。2018年、地元である世田谷区三軒茶屋にて三軒茶屋マルオ歯科を開業。開業以来自費率55%以上をキープし、3年目で法人化。2021年、恵比寿マルオ歯科審美インプラントスタジオ開業。デジタル、インプラント、歯科医院経営サポート・若手育成・歯科動画サイト運営など多岐にわたって活動する。