待合室の絵本コンシェルジュ:DHstyle 2023年7月号

歯科衛生士向け月刊誌『DHstyle』より、歯科医院の待合室にぴったりの素敵な絵本をご紹介いたします。今回は、『ブレーメンのおんがくたい』です。

ゼネラルデンタルカタログ

『ブレーメンのおんがくたい』

 今月は、グリム童話の『ブレーメンのおんがくたい』を紹介します。よく知られた昔話ですが、あなたの記憶とは少し違う内容かもしれません。なにしろグリムの原作では、主人公たちは音楽隊に入っていませんし、ブレーメンにすら行っていないのですから……。

 主人公は、年老いて役立たずと言われ、殺されそうになった動物たちで、ろばと犬と猫と雄鶏です。彼らは、生きるために音楽隊に入ろうと、みんなでブレーメンを目指します。旅の途中、灯りのついた家を見つけた彼らは、その家の住人である泥棒たちを追い出し、食事にありつきます。奪われた家を取り戻そうと偵察に来た泥棒の手下を返り討ちにし、ついにその家を手に入れました。この家を気に入った彼らは、2度と離れることなく暮らしました。
 「え~、そんなお話だったっけ?!」と驚く声が聞こえてきそうです。これでは、極端にいうと、高齢者軽視・命の危機・略奪など何ともやりきれないお話で、子どもに聞かせてよいのか不安になる方もいるでしょう。でも、心配はいりません。その心配は、あくまでも大人の目からみた物語に対するものだからです。
 以前読んだときと印象が違うと感じた方は、幼い頃に読んだのではありませんか? 同じ内容でも、子どもの頃なら「老齢で弱者の動物たちが、力を合わせて悪者をやっつけ、幸せをつかむ物語」として記憶に残ったのではないでしょうか? このように、同じ絵本を読んでも、年齢や読む人などによって、その世界がまったく違って見えることがあります。そこに、絵本を読む面白さがあるともいえますね。
 本書も、そんな読み方ができる絵本です。読者の年齢を選ばないので、幅広い年代の方が集まる待合室には好適です。加えて、ハンス・フィッシャーの絵の素晴らしさもお勧めする理由の1つです。悲しい場面はシンプルに、幸せな場面は華やかにと、色使いが工夫され、その軽やかな筆致からは、タイトルと相まって音楽が聴こえてくるようです。

おひさま堂 書籍部
大橋悦子

作:グリム
絵:ハンス・フィッシャー
訳:せた ていじ
出版社:福音館書店


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