書評:チェアーサイドで活きる内科疾患の基礎知識 安心・安全な歯科医療に欠かせない多様化する内科疾患の最新情報を網羅!|『咬み合わせの科学』掲載

このたび、日本顎咬合学会誌『咬み合わせの科学』に書評を掲載いただきましたのでご紹介いたします。
今回は、『チェアーサイドで活きる内科疾患の基礎知識 安心・安全な歯科医療に欠かせない多様化する内科疾患の最新情報を網羅!』の書評を、富野 晃 先生(札幌市開業)に執筆いただきました。是非ご一読ください。

歯科医療の楽しさは
人体そのものの医療であること

その第一歩が内科疾患の理解であり,そこを促す本書に価値を見出す.

チェアーサイドで活きる内科疾患の基礎知識
安心・安全な歯科医療に欠かせない多様化する内科疾患の最新情報を網羅!

 著者は「刊行にあたって」で,“超高齢社会では,患者さんはすでに何らかの基礎疾患を有していることが多い.高齢者や有病者の歯科治療を行う歯科医師は,多様化する内科疾患の基礎知識を身につけ,医科との連携による安心・安全な歯科医療を提供する義務が求められている“といい,これからの時代は医療・介護(医療連携)の総力を挙げて健康寿命の延伸に努力する必要性のあることを本書の随所で力説されている.
 この医療連携で歯科医療を活性化させるべきと発言していた一人が,聖路加国際病院院長であった故・日野原重明氏である.氏は“歯科医師の先生といえば,歯科以外の医療がどこまで進歩しているかを常に勉強し,プライマリケアの6割ぐらいの病気について診立てができ,患者さんに他の病院や診療科を紹介できるようになれば,歯科医療の活性化にもつながると思います.自らが努力しなければ周りは認めてくれません”というのだ.
 本書は,このような考えに同調するかのような全体構成と著述になっている.つまり,とかく歯科臨床のガイドブックはさまざまな疾患の概要はもちろん記載されてはいるが,どちらかといえば「抜歯や歯周外科などの観血処置は可能か?」,「局所麻酔をする際の注意は?」など,HowTo主体になる傾向がある.これも大事だが,このような思考回路の変更を促す良書といえよう.
 では,本書の内容を見てみよう.
 本書は歯科医院への来院頻度が多い36の内科疾患を取り上げ,「疾患概念・定義」を解説したのち,「医療面接での情報収集」と「検査データの見方・読み方」および「お薬手帳の見方・読み方」をコンパクトにまとめた上で,「内科医からの歯科診療へのアドバイス」という構成になっている.「疾患概念・定義」の部分はやや理解の難しさはあるものの,難しいだろう箇所には平易な表現で補足しており親切である.読んでいて楽しいのは「医療面接」の部分で,臨場感ある歯科医と患者とのやり取りがあるわけで,ここでの歯科医は内科医の著書らしく,プライマリケアをほぼ理解しているように設定されているが,現実はどうであろうか.歯科医は内科疾患を治療するわけではないが,多分,著者の歯科医はこうであって欲しい姿が投影されているのかもしれない.「検査データの見方・読み方」の部分は,まさに内科疾患の基礎知識の理解度が求められるもので,一般歯科開業医には少し時間を割いて,疾患の病状把握を学んでほしいと思う.「お薬手帳の見方・読み方」では薬剤の効果と副作用が大変参考になる.なぜなら,歯科診療では歯科口腔外科以外はあまり多くの薬剤を使用することはないので,医科からの情報提供で戸惑いを感じることもあり,本書で取り上げた疾患に対する主だった薬剤だけでも理解したいものである.「内科医から歯科診療へのアドバイス」では,内科疾患と歯科疾患との関わりにも触れていて,特に歯周病などと全身疾患との関連性や治療前に「トイレに行かなくても大丈夫?」などと血圧変動と歯科診療についても触れていて大変興味深い.
 ここまで,本書の雑駁な紹介になったかもしれないが,昔から歯科医は歯肉の色と冠の種類には興味を示すが,字数や図表が多いのには興味を示さないとの巷の声はあった.それは読んでも面白くなく,理解を促すポイントが示されていなかったからだ.その反面,本書は読んで面白く,一度読んで面白い本はまた読む.読む回数が納得につながるのである.
 最後に,作家の故・遠藤周作氏は平成元年の産経新聞のコラム「なぜ歯科だけ別扱いなの?」の抜粋を紹介したい.
 「私は人体はアメリカ合衆国のようなものだと考えている.なるほど合衆国だから色々な州に分かれている.歯や口だって特別に独立したものではなく,人体に属するのはちょうど合衆国の州がアメリカに属しているようなものだ.(中略)医学は細分化されたことで確かに進歩した.しかし,同時にその細分化への反省が今しきりと起こり,病気をみて病人を診ないという声が医師のなかからも起こっている.だから私は,今後,歯科医も人体の臓器や疾病と歯との関係を調べる研究をしていくだろうと思う.そうしてみると将来は歯科医も眼科医とおなじく正当な意味での“医者”であるべきと考えるのだが」.
 ここで評者は医科歯科一元論・二元論を述べるつもりはない.人体にとって大切な歯・口の疾患と全身疾患,とくに内科疾患との関係性の理解が安心・安全な歯科医療につながるので,本書を是非読んでいただきたいのである.

目次

I.呼吸器疾患 VI.代謝・内分泌疾患
II.循環器疾患 VII.アレルギー・膠原病
IIIA.消化器疾患(食道・胃・腸) VIII.脳・神経疾患・メンタル
IIIB.消化器疾患(肝・胆道・膵) IX.感染症
IV.腎疾患 X.その他―最近の話題―
V.血液疾患


評:富野 晃(札幌市開業)
[日本顎咬合学会誌『咬み合わせの科学』第43巻 第1号 2023 掲載]

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●編著:富野康日己
● A5 判・188 頁
● 2023 年4 月1 日
●定価:5,500 円(税込)
●デンタルダイヤモンド社

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