本のエッセンス|刊行にあたって:THE 医療物販学 物販のポイントを1冊にまとめてみた。

本のエッセンスは、書籍の「はじめに」や「刊行にあたって」に詰まっています。
この連載では、編集委員や著者が伝えたいことを端的にお届けするべく、おすすめ本の「はじめに」や「刊行にあたって」、「もくじ」をご紹介します。
今回は、『THE 医療物販学 物販のポイントを1冊にまとめてみた。』です。

ゼネラルデンタルカタログ

刊行にあたって

 私は2016年に父親から医院を継承し、2017年から「物販」をテーマに講演を始めました。以来、年間平均で160講演を行い、26,000人以上の方々に講演を聞いていただくことができました。 これは 2020 年以降のコロナ禍によってオンラインのセミナーが増えたことも影響しています。 とあるホワイトニングのセミナーでは、1,400 名もの方に一度に聞いてもらい、オンラインの 凄さを実感しました。
 さて、2024年までの7年間で500医院以上の待合室を見てきて、私自身「物販」の奥深さを感じています。本書のなかでも触れていますが、本当に「失敗はサイエンス、成功はアート」という言葉は真理だなと感じています。
 私自身も、私を呼んでくださった医院の方々も、想いは一つ「物販で売り上げが上がる」。
 そんなふうにスタートしても、多くの医院が学んで終わりで実践しないことに憤りを感じることもありました。また、セミナーが単発で終わってしまい、その後の質問やアフターフォローに時間を取れないことは問題だと感じていました。そこで、2022年からオンラインサロンを作り、継続的な学びの場を提供することで、全国の仲間たちと切磋琢磨する関係を構築し、学び合う仲間を作ることができました。
 そこで目をつけたのが、マーケティングやマネジメント、心理学を包括的に含んで学べる「行動経済学」です。行動経済学とは、人間が感情の影響を受け「必ずしも合理的ではない行動」を起こすため、心理学的なアプローチで人間行動を研究する経済学です。
 たとえば、合理的に価格を考えれば「格安スマホ」を全員が使うはずですが、その何倍もする「iPhone」を並んでまでして買うという行動を人間はとります。
 また、「スイーツ」は糖質や脂質が多く体によいとはいえませんが、高いお金を払ってでも、行列に並んででもご褒美として食べたくなります。過去の経済学で考えられてきた「人間は合理的な行動をする」というふうに考えれば、これらは説明がつかない行動です。
 従来の経済学は、人間の経済行動は合理的な思考から生じることを前提としてさまざまな数理モデルが作られてきました。たとえば、「人は安くて近い店に行き、高くて遠い店には行かない」という前提で人間の経済行動を考えていました。ところが、交通の便が悪く、なおかつ高くて小さな店であるのにもかかわらず、つねに行列が途切れない店が、世の中には存在します。その繁盛の秘密は、合理思考によるこれまでの経済原理では最適解が求められません。
 行動経済学は、ここに焦点を当てています。
 人間は感情や心理の影響によって、合理的な判断をしない場合も多いのです。こうした非合理的な行動を経済学的見地から分析するのが、行動心理学です。
 この「行動経済学」の始祖の一人が、ダニエル・カーネマンです。カーネマンは2002年にノーベル経済学賞を受賞していますが、著書『ファスト&スロー』(早川書房)は面白いうえに、 極めて有用な学びを提供しています。
 また、2017 年に同分野でノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラーの著書『行動経済学の逆襲』(早川書房)も、マネジメントの現場で有用な知見に溢れています。
 とくにすばらしいと感じるのは、私が各医院の現場で「著名な先生が言っているけど、本当にそうなの?」とか、「“常識”として扱われているけど、本当に信じていいの?」など、疑問に思ってきたことの数々が、行動経済学の見地から科学的に検証されていることです。詳しくは、それぞれの著書を読んでほしいと思います。

・「物販」という新しいことへの取り組みは根気が必要だ。
・人間は、誰もがやり慣れた方法や習慣が心地よいものだ。
・だが、歯科医院経営は現実的なビジネスである。
・集患し、医院としての利益を得なければ、どれほど歯科医師としての腕がよくても、患者の役に立つことはできない。
・廃業してしまえば患者は通えないのだ。
・歯科医師としての矜持は、医院経営の安定化が保証するものだ。


 私は、上記のような思いを抱き、これまで物販について取り組んできました。そして、その過程で得た知見を、本書にまとめました。
 私はこれから大きく変わっていくであろう日本の医療保険制度で、統合もしくは廃業されてしまう歯科医院をあまり見たくはありません。多くの歯科医師に、自身の想いを込めて開業した医院の経営を安定化させ、自身やスタッフのみなさんに幸せになってもらいたいと思っています。そして、歯科医院が潤うことで、地域の患者さんやそうではないみなさんにも貢献できるでしょうし、ひいては、われわれを支えてくれる歯科関連企業にも潤ってほしいのです。
 これが私が望むwin-win-winの関係であり、これこそが業界が発展する一助になると考ます。私は心からそう願っています。本書は、そんな私の願いを込めた書籍といえます。
 歯科医院だけでなく、皮膚科、眼科、内科、整形外科などの医科のクリニックや、鍼灸整体院、調剤薬局、獣医などのアドバイザーとしての経験が、『医療物販学』という学術的な理論体系に落とし込まれています。歯科医院の継続的な発展のためのヒントを、本書から見つけてもらえれば幸いです。それが私にとっての社会貢献でもあるのですから。
 本書が読者のみなさんのお役に立てますように。

『Start up!! 待合室マーケティング』という書籍を2020年2月にデンタルダイヤモンド社より出版させていただき、およそ4年が経過しました。そしてこのたび、別冊として新たに書籍を刊行する機会をいただけました。編集長の山口さん、担当の田村さん、そして編集部のみなさんに改めて感謝を申し上げます。ありがとうございます。

2024月1月
中原維浩

CONTENTS


監修者略歴

中原維浩(なかはら まさひろ)

2010 年 東京歯科大学卒業
2016 年 細田歯科医院 院長に就任
2018 年 戸塚駅前トリコ歯科 院長に就任
2020 年 医療法人社団栄昂会(細田歯科医院・戸塚駅前トリコ歯科)理事長に就任 2021 年 株式会社 中原まさひろの医療物販学 LABO(オンラインサロン)開設 現在に至る

【所属学会】
ICD(国際歯科学士会) Fellow 日本アンチエイジング歯科学会 常任理事・認定医 日本臨床歯科 CADCAM 学会 関東甲信越支部役員 日本スウェーデン歯科学会 理事 日本顎咬合学会 認定医 ジャパンオーラルヘルス学会 認定医 国際口腔インプラント学会 Fellow JFIR(日本病巣疾患研究会) 会員 JSOM(日本オーソモレキュラー学会) 会員