【感染制御学ノート】vol.132 新型コロナウイルス(続報29):DHstyle 2022年12月号

vol.132 新型コロナウイルス(続報29)

佐藤法仁 Norito SATOH
岡山大学 副理事(研究・産学共創担当)・URA
立命館大学 総合科学技術研究機構 教授
内閣府 上席科学技術政策フェロー

図❶ 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2:左)とインフルエンザウイルス(右)の形態モデル。形態モデルではウイルスに色がついているが、実際のウイルスにこのような色がついているわけではない(参考文献1,2)より転載)

DATA

分類:ウイルス
形態:球状
感染経路:飛沫感染、接触感染、エアロゾル感染
ワクチン:実用段階

Point

  • 今年は季節性インフルエンザの流行が懸念されている。
  • 国では、関係する団体・学会、経済団体、国・地方の行政機関などで、「新型コロナ・インフル同時流行対策タスクフォース」を組織して対応を進めている。
  • 重症化リスクのある人とない人の流れのイメージが公開されている。
  • 新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスが同時に感染する事例は、海外の調査研究で報告されている。
  • この冬はインフルエンザワクチンの接種など、コロナ禍前の季節性インフルエンザに対する感染対策にも対応する必要がある。
おことわり

 本号では、現在流行している「新型コロナウイルス(図1左)」について取り上げます。執筆時点(2022年11月2日)で判明している点を記載していますが、今後の研究および情勢などで執筆内容との齟齬、あるいは新たな点が明確となる可能性がおおいにあります。その点を考慮して、本号をお読みください。

はじめに

 本シリーズでは、2020年の4月号から新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)と、それが引き起こす新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大に対応し、さまざまな情報をお届けしてきました。12月を迎え、季節性インフルエンザ(以下、インフルエンザ)も気になる季節かと思います。
 新型コロナウイルス感染症が流行し始めてから、徹底した感染対策や外出の自粛などで、インフルエンザがコロナ禍以前のように流行することは、あまりみられませんでした。しかし現在、新型コロナウイルス感染症が下火になりつつあり、渡航やイベントも緩和されつつあるなかで、インフルエンザの流行が懸念されています。
 本号では、現時点での新型コロナウイルス感染症とインフルエンザが同時流行した場合の対応について、紹介します。

新型コロナ・インフル同時流行への対応

 国では、新型コロナウイルス感染症に対する規制の緩和などにより、再びインフルエンザが流行する可能性に注意を払っています。また、新型コロナウイルス感染症自体は、終息までにまだ時間がかかると思われており、この冬は新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの同時流行が懸念されています。そのため、10月13日から厚生労働省において、「新型コロナ・インフル同時流行対策タスクフォース」が、関係団体・学会、経済団体、国・地方の行政機関などにより結成されました3)。そのなかで、外来受診・療養の流れのイメージが作成されています。

1.重症化リスクが高い人(図2)

 重症化リスクが高い人(小学生以下の子ども、妊婦、基礎疾患がある人、高齢者など)に症状が認められた際は、すみやかに病院や地域の検査センターなどを受診します。そこで、新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスの感染を確認するための検査を実施します。
 新型コロナウイルスもインフルエンザウイルスも陰性と判定された場合は、その他の原因として対応します。とくに小児のRSウイルス感染症が増加しているため、その検査などを行います。インフルエンザウイルス陽性と判定された場合は、症状に応じて自宅療養か入院となります。また、医師により必要性があると判断された人については、発症後48時間以内に抗インフルエンザ薬などを処方します。
 他方、新型コロナウイルス陽性と判定された場合、➀65歳以上の人、➁妊婦、➂入院が必要な人、➃重症化リスクがあり治療薬の投与などが必要と医師が判断した人など(届出対象:4類型)は、自宅療養か入院となります。自宅療養の場合は、必要に応じて治療薬の服用、保健所をはじめとした諸機関が重点的にフォローして急変などに備えます。届出対象:4類型以外の人は、自宅療養となります。場合によっては、自宅以外の宿泊療養や配食などの支援を受けられる場合があります5)

2.重症化リスクが低い人(図3)

 重症化リスクが低い人に症状が認められた場合、まずは新型コロナウイルスの検査をキットなどで自己検査します。この新型コロナウイルスの検査は、抗原定性検査キットであり、約2.4億回分が確保されています5)
 新型コロナウイルス陰性と判定された場合、次にインフルエンザウイルスの検査を行います。インフルエンザウイルス陽性と判定されれば、自宅療養か入院。医師により必要性があると判断された人については、発症後48時間以内に抗インフルエンザ薬などを処方します。陰性の場合は、原因に応じた対応がなされます。
 新型コロナウイルス陽性と判定された場合、自治体などが指定する健康フォローアップセンターに陽性者登録し、自宅療養となります。場合によっては自宅以外の宿泊療養や配食などの支援を受けられます。容体が急変した際は、健康フォローアップセンターに連絡して対応を求めることになります5)。オンライン診療など、利便性を高めた対応も進められています。

3.同時に感染することはあり得るのか?

 前述の対応イメージでは、「新型コロナウイルス陰性、インフルエンザウイルス陽性」または「新型コロナウイルス陽性、インフルエンザウイルス陰性」と、「どちらかのウイルスに感染する場合」を想定されていることに気がつくかと思います。そこで感じるのは、「両方のウイルスに同時感染することはあり得るのか?」との疑問でしょう。
 これについてはまだ不明確な点も多いのですが、ウイルスには1つのウイルスに感染すると他のウイルスには感染しにくくなる「ウイルス干渉」という相互作用があるとされています。すべてのウイルスが当てはまるわけではないですが、このウイルス干渉によってAというウイルスに感染しているときは、Bというウイルスには感染しにくいといえます。これはヒトを対象とした研究でも報告されています6)
 では、「新型コロナウイルスに感染すれば、インフルエンザウイルスには感染しない」と答えられるかというと、そうではありません。新型コロナウイルスは、「新型」である点からまだまだ不明な点があり、ウイルス干渉を受けない可能性も指摘され、海外では同時感染(流行)が指摘されています7)
 イギリスの調査報告では、新型コロナウイルスに感染している人のなかで、インフルエンザウイルスにも同時に感染している例があるとしています8)。さらに実験的に同時感染させた動物実験では、1つのウイルス感染よりも重症度が高くなっている報告9)もあります。今後、「新型コロナ・インフル同時流行対策タスクフォース」などにおいて、同時感染の対策が講じられるでしょう。また、個人においてもインフルエンザウイルスワクチンを接種するなど、感染対策の対応が必要になるかと思います。

図❷ 新型コロナウイルス感染症、インフルエンザの大規模な流行が同時期に起きる場合に備えた、重症化リスクが高い人の外来診療・療養の流れ(イメージ)。このフローは標準的なモデルで、各地域の状況に応じて変更される場合がある。また、自宅療養中の体調変化時などは、受診先の医療機関や登録している健康フォローアップセンターに連絡する(参考文献4)より引用改変)


図❸ 新型コロナウイルス感染症、インフルエンザの大規模な流行が同時期に起きる場合に備えた、重症化リスクが低い人の外来診療・療養の流れ(イメージ)。このフローは標準的なモデルで、各地域の状況に応じて変更される場合がある。また、自宅療養中の体調変化時などは、受診先の医療機関や登録している健康フォローアップセンターに連絡する(参考文献4)より引用改変)

おわりに

 今回は、新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスの同時流行への対応について、厚生労働省の「新型コロナ・インフル同時流行対策タスクフォース」における検討事項である、重症化リスクが高い人と低い人の流れについて、紹介しました。
 今回紹介した内容は現時点でのものであり、また自治体によって異なる場合が出てくると予想されます。まずは流れの概要を把握することで、備えるための準備をしていただければと思います。他方で、インフルエンザウイルスのワクチン接種など、予防対策に進めておくのもよいかもしれません。

参考文献

1)Centers for Disease Control and Prevention(CDC):Public Health Image Library, ID#23312, 2020.
2)CDC:Public Health Image Library, ID#23227, 2019.
3)厚生労働省新型コロナ・インフル同時流行対策タスクフォース:第1回新型コロナ・インフルエンザ 同時流行対策タスクフォース議事概要(令和4年10月13日).厚生労働省,2022.https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001006273.pdf
4)厚生労働省新型コロナ・インフル同時流行対策タスクフォース:新型コロナ・インフルエンザの大規模な流行が同時期に起きる場合に備えた外来受診・療養の流れ(案).厚生労働省,2022.https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001000888.pdf
5)厚生労働省新型コロナ・インフル同時流行対策タスクフォース:新型コロナウイルスと季節性インフルエンザの同時流行に備えた対応(案).厚生労働省,2022.https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001000887.pdf
6)R. M. Greer., et al.:Do rhinoviruses reduce the probability of viral co-detection during acute respiratory tract infections?. J Clin Virol, 2009. 45(1): 10-5. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S138665320900122X?via%3Dihub
7)忽那賢志:新型コロナとインフルエンザ 2つ同時に感染しうるのか?同時感染すれば重症化しやすいのか?(2022.10.29), 2022.
https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20221029-00320655
8)M. C. Swets., et al.:SARS-CoV-2 co-infection with influenza viruses, respiratory syncytial virus, or adenoviruses. Lancet, 2022. 16;399(10334): 1463-1464. https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(22)00383-X/fulltext
9)A. J. Zhang., et al.:Coinfection by Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 and Influenza A(H1N1)pdm09 Virus Enhances the Severity of Pneumonia in Golden Syrian Hamsters. Clin Infect Dis, 2021. Jun 15;72(12): e978-e992. https://academic.oup.com/cid/article/72/12/e978/5995847?login=false
(参考文献のURLは2022年11月2日最終アクセス)

https://www.dental-diamond.co.jp/item/1109