Q&A その他 梅毒の初期症状と適切な対応|デンタルダイヤモンド 2022年11月号

学術・経営・税務・法律など歯科医院での治療・経営に役立つQ&Aをご紹介いたします。今回は、月刊 デンタルダイヤモンド 2022年11月号より「梅毒の初期症状と適切な対応」についてです。

梅毒の罹患者がかなりのペースで増えていると報道がありました。そこで、口腔内に見られる梅毒の初期症状、対応方法、注意点などを教えてください。    大阪府・K歯科

梅毒はTreponema pallidumを病原体とする全身性の慢性感染症です。近年、性行為感染予防の意識の希薄化や性行動の多様化などにより罹患率の急増が指摘され、2013年以降梅毒の罹患者数は年間1,000人を超えて年々増加傾向にあります1)
 後天性梅毒は、感染後平均3週間(10~90日)の潜伏期間(第1潜伏期)を経た後に第1期、第2期、潜伏期(第2潜伏期)、第3期の順に進行します。口腔内に症状が発現するのは第1期、第2期です。

1.初期症状(表1)

 第1期梅毒は感染部位に無痛性の初期硬結や硬性下疳が形成され、無痛性の所属リンパ節腫脹を伴うことがあります。初期硬結は、孤立性で境界明瞭、暗赤色の疼痛のない硬い結節として認められます。この病変が増大して中央部分が陥凹し潰瘍となり、辺縁が隆起して周囲組織への浸潤が強くなった状態を硬性下疳といいます。これらの症状は4~6週間で自然消退します。
 第2期梅毒は、血行性に全身感染に移行しバラ疹や梅毒乾癬、紅斑性丘疹、扁平コンジローマなどの皮膚症状や口腔粘膜(舌、口唇、頰粘膜など)に広範囲におよぶ灰白色の肥厚性粘膜斑を呈することがあります。また、口蓋垂を中心に両側軟口蓋に生じるとbutterfly appearance(図1)と呼ばれる梅毒特有の症状が認められるようになります3)


表❶ 梅毒の病期分類と症状(参考文献4)より引用改変)
表❶ 梅毒の病期分類と症状(参考文献4)より引用改変)


表❶ 梅毒の病期分類と症状(参考文献4)より引用改変)
図❶ butterfl y appearance。
口蓋垂を中心に軽度のびらんを伴う乳白斑(参考文献2)より引用)

2.対応方法

 梅毒が疑われる場合には、皮膚科などの専門科に対診し、確定診断を得る必要があります。確定診断の基本は病原体の分離、検出ですが、臨床的には臨床症状と血清反応から診断することが多いです。治療はアレルギーなど特別の理由がないかぎり、ペニシリン系抗菌薬が第一選択です。投与期間は病期により異なり、第1期では2~4週間、第2期では4~8週間です。

3.注意点

 歯科医院において、特徴的な口腔粘膜病変が出現していた場合には、性感染症関連の口腔内病変を念頭において、患者に対して確実な診断と適切な治療が必要であることを十分に説明し、患者が秘匿するおそれのある詳細な現病歴や行動履歴を聴取します。それには、歯科医師-患者間の信頼関係の構築が極めて重要です。

【参考文献】

1)国立感染症研究所ホームページ:日本の梅毒症例の動向について.
(https://www.niid.go.jp/niid/ja/syphilis-m/syphilis-trend.html)
2)目瀬 浩:びらんを伴う乳白斑.デンタルダイヤモンド,46(4):21-22,2021.
3)杉山 勝:第5章 顎口腔の炎症 5.特異性炎 3)梅毒.白砂兼光,古郷幹彦(編):口腔外科学 第3版.医歯薬出版,東京,2018:148-149.
4)池畑美紀子,安田卓史,他:長期経過を経て口腔症状を契機に診断に至った梅毒の1例.日口内誌,26:36-40,2020.

目瀬 浩
●福山市民病院 歯科口腔外科

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