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『もりにきたのは』
正直にいうと、今月ご紹介する絵本『もりにきたのは』は、ベストセラーでもなければSNSなどでバズったという絵本でもありません。けれど、美しい絵と心を打つ内容から、筆者がどうしてもご紹介したいと思った作品です。
主人公は、小さな流氷のかけらに乗って森に流れ着いた、ホッキョクグマの子どもです。森に住む動物たちはその姿におびえ、話しかける勇気もなく、遠巻きに様子を探るばかり。一方クマは、丘の上のほら穴に住みつき、毎日森を歩き回っては、たくさんの葉っぱを集めていました。それで、森の動物たちはそのクマのことをリーフと呼ぶようになりました。
ところがある日、リーフは集めた葉っぱを体にまとい、森を駆け抜けていったのです! そして、丘の端から思い切り飛び上がって……と続くはずでしたが、そのまま湖に落ちてしまいました。その後も、同じことを繰り返すリーフ。見かねた森のカラスが、「なぜそんなことをするのか?」と理由を問うと、リーフは「住んでいた北極の気候が変わって氷が融け、流氷に乗ったまま流されてしまった。だから、葉っぱを身に付け飛び立てば、風に舞う葉っぱのように空を飛んで、北極へ帰れるかもしれないと思った」と答えたのです。
リーフの真意を知った森の動物たちは、リーフを助けることにしました。でも、どうやって? 果たしてリーフは、北極へ帰ることができるのでしょうか……。こう書くと、結末が心配になりますね? でもご安心を! 思いがけない展開と幸せな結末が待っていますので。
本書は、地球温暖化や不寛容といったSDGsに繫がるテーマをもち、洗練された表紙からも、大人向け絵本のような雰囲気が漂います。けれど、決してそうではありません。見返しにあるドイツの詩人ハインリヒ・シラーの言葉や登場する動物たちの姿からは、小さな読者に向けた作者の確かなメッセージが感じられます。子どもたちに他者への共感や行動することの意味を伝えてくれる、よい絵本です。
おひさま堂 書籍部
大橋悦子
歯科衛生士向け月刊誌『DHstyle』より、歯科医院の待合室にぴったりの素敵な絵本をご紹介いたします。今回は、『もりにきたのは』です。