待合室の絵本コンシェルジュ:DHstyle 2023年1月号

歯科衛生士向け月刊誌『DHstyle』より、歯科医院の待合室にぴったりの素敵な絵本をご紹介いたします。今回は、『おもちのきもち』です。

『おもちのきもち』

 古来より「笑う門には福来る」と申します。そこで今月は、読めば来福を期待できる『おもちのきもち』をご紹介します。『だるまさんが』のシリーズでおなじみの、かがくいひろし氏のほんわか系ユーモア絵本です。

 表紙に描かれているのは、たごさくどんちの鏡餅。扇や紅白の紙垂(しで)(聖域を示す象徴)で美しく飾られていますが、なぜか浮かない顔をしています。実はこの鏡餅は、スチームサウナのような蒸篭(せいろ)に閉じ込められ、さらには杵で頭を叩かれたり丸められたりと、苦難の末にやっと鏡餅になって、床の間に供えられたところなのです。

 しかも、時を同じくしてお餅になった兄弟たちは、のし棒でペッタンコに伸ばされたり、ちぎられたり、辛い大根おろしやネバネバの納豆を絡められたりした挙句、人間にペロリと食べられてしまいました。それを見ていた鏡餅は、明日はわが身と恐ろしくなって、たごさくどんちを逃げ出すことにしました。思い切って外へ飛び出すと、「ビロンビロンビローン」と伸びては逃げ、逃げては伸びるを繰り返し、お餅ならではのオノマトペをBGM代わりに、一目散に走っていきます。


 何とか遠くまで逃げた鏡餅でしたが、気がつけばお腹がペッコペコ。そこで、試しに自分の体を「カポッ」とひと口食べてみました。すると、これが思った以上に美味しくて、「カポッカポッ」とやめられなくなってしまいます。次第に硬くなっていく体にも気づかず「グルリンカポッ」と食べ続けた結果、ウロボロスのような形の鏡餅になってしまい……。


 「いや、それはありえない展開でしょ?」というツッコミはごもっともですが、ここはひとつご勘弁ください。日本の縁起物をシュールな笑いに変える手法は作者の真骨頂ですし、何より鏡餅の幸せそうな表情と結末が、読者にとびきりの笑顔を届けてくれますので。


 なお、蛇足ながら、待合室の本棚には表紙を見せて置いていただくと、お正月ムードが一気に高まりますので、ぜひお試しください。

おひさま堂 書籍部
大橋悦子

文・絵:かがくいひろし 
出版社:講談社


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