待合室の絵本コンシェルジュ:DHstyle 2022年9月号

歯科衛生士向け月刊誌『DHstyle』より、歯科医院の待合室にぴったりの素敵な絵本をご紹介いたします。今回は、『デンタウン DENTOWN』です。

『デンタウン DENTOWN』

 まっ白に輝く肥沃な大地。そこに、新しい土地を求めて、一組の家族がやってきました。やがてそこには、家ができ、街が作られ、ついにはデンタウンという大都市が形成されるのでした……。
 これが、今回ご紹介する絵本『デンタウン』のストーリーです。あれ、『大草原の小さな家』みたいな話だな……と思われた方がいるかもしれませんね。でもこの絵本には、それとはまったく違う点が1つあります。なんと、デンタウンの開拓者すべてが、我らが最大の敵「むし歯菌」なのです。

 むし歯菌たちはとても勤勉で、雨露をしのぐために、寝る間も惜しんで穴を掘り続けます。親戚や周りのむし歯菌との協力態勢も整っており、住みやすい街を作るため最大の努力を払います。彼らがむし歯菌でさえなければ、きっと読者は、心から彼らを応援するでしょう。

 私たちにとっては憎むべきむし歯菌ですが、幾多の困難を乗り越え、街作りに励む姿はとても健気で、ついつい彼らをサポートしたくなってしまいます。

 おっと、危ない、危ない! 読者は、絶対に手助けをしてはいけませんよ。勤勉で努力家のむし歯菌の姿こそが、この絵本の怖いところ。主人公たちの姿に惑わされ、歯磨きを怠ると、私たちの口の中はむし歯菌たちのメガシティになってしまうというわけです。

 本書は、人間目線ではなくむし歯菌の視点をとおして、むし歯の構造を理解できるユーモア絵本です。それと同時に、治療をかいくぐって生き延びるむし歯菌たちが、「また、一からデンタウンを作ろう!」と励ましあう姿を描くことで、私たちに歯磨きの大切さを再認識させる啓発絵本でもあります。
 このうえは、読者一丸となって、デンタウンの建設を阻止していきましょう! エイ、エイ、オー! むし歯予防のための解説(日本小児歯科学会専門医指導医・外木徳子氏 監修)も、読者の強い味方になってくれます。待合室に、このようなちょっと風変わりな絵本があるのも一興です。

おひさま堂 書籍部
大橋悦子

作・絵:中垣ゆたか
出版社:世界文化社
SBN:978-4-418-22829-4

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