Q&A 歯科一般 認知症の人とスムーズなコミュニケーションをとるには?|デンタルダイヤモンド 2023年4月号

学術・経営・税務・法律など歯科医院での治療・経営に役立つQ&Aをご紹介いたします。今回は、月刊 デンタルダイヤモンド 2023年4月号より「認知症の人とスムーズなコミュニケーションをとるには?」についてです。

ゼネラルデンタルカタログ
昨今の高齢化に伴い、当院に来院する患者に高齢者が増えてきました。そして、今後は認知症の人と接する機会も増えてくるように思います。そこで、認知症の人とのコミュニケーションに役立つメソッド・対応方法を教えてください。
北海道・M歯科医院

1.認知症の人へのアプローチ

「認知症」と聞くと、“どのように接したらよいかわからない”といった戸惑いを感じる方も多いかもしれません。一般的な認知症ケアメソッドというと、認知症の人自身にとって心地よく、かつ家族や介護者による介護がうまくいく方法を指しており、決して“口腔疾患の治療”や“口腔ケア”がうまくいく方法ではありません。
 しかし、認知症は周囲のことに上手に対応できなくなる病態であることと、同時に口腔は非常に敏感な組織であることを加味すると、われわれには認知症の人の心に対する認知症ケアメソッドと、特別な配慮をした口腔へのアプローチ方法の両方が必要です。
 本稿では歯科治療に役立つ認知症ケアメソッドについて解説します。

2.コミュニケーションのポイント

 認知症ケアの基本は、「その人がもつ能力を発揮してもらえるように支援すること」であり、「かわりにやってあげること」ではありません。ケアメソッドとしては、認知症介護に関してはPerson-Centered Care(PCC)1,2)やHumanitude(ユマニチュード3,4)、Validation(バリデーション)5)、タクティールケア6,4)などのケア手法が報告されています。これらの技法だけを学ぶことよりも、理念を理解することのほうが重要です。いずれのメソッドも根底にあるのは「認知症の人を、人として尊重して大事にすること」です。
 たとえば、Humanitudeでは、その人のもつ能力を奪わないための工夫により「人間らしさを取り戻す」という考え方があります。認知症の人に対して「あなたはとても大切な人です」という強いメッセージを伝えるための工夫の4つの要素である「見る」「話す」「触れる」「立つ」が「ケアの4つの柱」と名付けられています。
 言語的コミュニケーション以外にも声色や抑揚、話すスピードといった準言語的コミュニケーション、目線や表情、相手へ優しく触れるなどの非言語的コミュニケーションを総合的に行うことで、ケアを提供する者の厚意や支援する意思を伝え、認知症の人自身が不安や恐怖、ないがしろにされた不快感をもたないようにするコミュニケーション技法です(ぜひ講習会を受講してください:https://humanitude.care/humanitude/)。
 歯科医療において活用できるのは、とくに、認知症が進んできて、日常のなかにできないことが増えて、自分自身にはがゆさをもっている状態のケースから、それ以上の進行ケースまでです。
 まずは認知症の人自身の言語能力や対人能力を、コミュニケーションをとりながら見極め、そのときの本人に届く方法で実施することが大事です。覚醒している認知症の人なら、真正面から、手を振って注意を引き付け、にこやかな表情で近づき、顔を寄せてしっかりと目を見つめ、挨拶をして「今日はお会いできてうれしいです」などと、温かい感情が沸き起こるような声かけをしてください(図1)。
 さらにこの方法に加えて握手などやさしい身体接触や、体調を心配する声かけなどをして、本人がリラックスできる状況を作ってください。
 コミュニケーションをとろうとする歯科医師・歯科衛生士について「この人、何なのかしら?」から、“優しい顔が見えて”、“温かく話しかけてくれて”、“私を大事にしてくれる”、“私をないがしろにしない”「頼れるよい人なんだ」と認知症の人に感じてもらうことが重要です。
 誰だって、嫌な人に急にデリケートなところを触られるのは嫌です。口腔内はデリケートですから、口腔内に触る前にせめて「頼れるよい人」になれば、最初の入り口は成功です。

表❶ 認知症の人とコミュニケーションをとるときにはしっかり目を見て
図❶ 認知症の人とコミュニケーションをとるときにはしっかり目を見て

参考文献

1)Kitwood T: Dementia Reconsidered: The Person Comes First. Open University Press, Buckingham, 1997.
2)トム キットウッド,高橋誠一(訳):認知症のパーソンセンタードケア.クリエイツかもがわ,京都,2017.
3)Y. Gineste and J. Pellissier: Humanitude: Comprendre la Vieillesse, Prendre Soin des Hommes Vieux, Armand Colin, Paris, 2007.
4)本田美和子,イヴ ジネスト,ロゼット マレスコッティ:ユマニチュード入門.医学書院,東京,2014.
5)Feil N. The Validation Breakthrough: Simple Techniques For Communicating With People With “Alzheimer’s-Type Dementia”. Health Professions Press, Baltimore, 2002.
6)Andersson K, Törnlrvist L, Wandell P: Tactile massage within the primary health care setting. Complement lher Clin Pract, 15(3): 158-160, 2009.
7)Suzuki M, Tatsumi A, Otsuka T, et al.: Physical and psychological effects of 6-week tactile massage on elderly patients with severe dementia. Am J Alzheimers Dis Other Demen, 25(8): 680-686, 2010.

枝広あや子
●東京都健康長寿医療センター研究所

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