1.妊活とは
妊活にはいろいろな手段があります。かかりつけ産科医をもたずに、基礎体温をつけて計画的に妊娠を考える方もいれば、かかりつけ産科医がいて、不妊治療を行っている方もいます。筆者の経験上、「妊活中です」とおっしゃる患者は、ほとんどが後者だと思います。また、不妊治療にはさまざまな原因と治療手段があります(図1)。
したがって、まずはどのような妊活を行っているか、かかりつけ産科医はいるのか、そして現在、どの時期にいるのかを問診で把握しましょう。把握するのが難しい場合は、かかりつけ産科医に確認します。そして、かかりつけ産科医をもたない患者に対しては、産科医を受診するように促します。また、妊娠期の歯科受診にもいえますが、かかりつけ産科医に歯科受診を報告して、連携するようにしましょう。
図❶ 不妊の原因と治療一覧(参考文献1)より引用改変)
2.治療計画
妊活の治療時期を把握することで、歯科治療可能時期がわかり、治療計画を立てやすくなります。また、妊娠中よりも妊活中のほうが治療において、いろいろな制限がないことを丁寧に説明します。
なお、妊娠初期には薬剤の処方や歯科麻酔薬など治療内容に制限があります(表1)。また、妊娠特有の全身的症状やマタニティブルーで思うように治療が進まない場合もあります。さらに、出産後は自分のために時間が取れなく通院困難になる可能性もあります。
一方で、妊活中の患者のなかには妊婦よりもナーバスになっている方もいますので注意が必要です。より丁寧な治療内容の説明を心がけ、承認を得ます。また、このとき同意書の作成を忘れずに行います。
表❶ 妊娠初期の歯科治療、投薬の目安
3.妊娠中より妊活中の治療を勧める
妊娠を予定している患者は、妊娠中よりも口腔衛生について動機付けをする絶好の時期であり、本人のみならず家族にもよいきっかけとなります。したがって、妊娠前に必要な歯科治療を行う必要性を理解させます。加えて、妊娠によって生じる口腔内変化や、妊娠関連性歯肉炎・歯周炎のリスクなどを詳しく説明します。妊娠中はホルモンバランスの変化、つわり時の口腔清掃困難により、口腔内環境が変化するため、歯周病は増悪し、う蝕も進行しやすいです。
妊娠中の重度歯周病は、早産や胎児発育不全、妊娠高血圧腎症のリスクが高いことがわかっています。したがって、健康な赤ちゃんを産むためにも、妊活中から口腔内環境を整えておく必要があります。
4.かかりつけ歯科医の役割
妊娠中に来院する患者は、妊娠前から歯科的な問題があり、受胎時に治療途中であったというケースが多いです。歯肉炎についても妊娠以前から症状があったが受診せず、妊娠中に悪化したため受診するというのが現状です。理想は、妊娠前に歯科治療が終了し、定期的なクリーニングをしてくれる「かかりつけ歯科医」がいることです。これによって、妊娠中も口腔内のサポートが行え、重篤に陥るのを防止できます。
以上のように、かかりつけ歯科医の役割を説明し、これから妊娠・出産を迎える患者に口腔衛生の重要性を伝えていることが重要です。
【参考文献】
1)日本生殖医学会HP:Q8.不妊症の治療にはどんな方法があり、どのように行うのですか?(http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa08.html)
代田あづさ
●日本歯科大学附属病院 総合診療科
マタニティ歯科外来
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https://www.dental-diamond.co.jp/list/103
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学術・経営・税務・法律など歯科医院での治療・経営に役立つQ&Aをご紹介いたします。今回は、月刊 デンタルダイヤモンド 2023年1月号より「妊活中の患者への歯科治療時に気をつけることは?」についてです。