情報の宝庫
旧義歯を活かすコピーデンチャーの懇切丁寧な解説書
コピーデンチャーズ Q&A
無歯顎になると当然のことながら天然歯が1本もなくなっている.そのため,新義歯に付与すべき人工歯の位置や咬合高径などの拠り所が失われてしまっている.術者はそれを推理しながら新しい義歯をそこに作製していくわけであるが,総義歯製作は不確定な要素が多いために,たとえ作り上げたものが理想的な状態であっても患者に受け入れられないことも多々ある.そこで,もし患者が旧義歯を持っていれば,また調子悪いながらもそれを現在使っているならば,それは価値のある情報に違いないし,それをコピーデンチャーにして利用することは臨床を簡単にかつ確実なものにするために大いに有意義であると思われる.現に私は,患者が旧義歯を持っていれば,必ずそのコピーデンチャーを作り,それを咬合堤つき個人トレーとして印象採得・咬合採得を同時に行うという方法で新義歯の製作を行っている.これが一番簡単で確実な総義歯製作法であるといつも思っている.その私が小躍りするような本がこの度デンタルダイヤモンド社から出版された.
本書の表題は『コピーデンチャーズQ&A』である.2年ほど前に『コピーデンチャーズ』というタイトルの本を同じ著者で出版されているが,その本の評価が高かったために,多くの質問が寄せられた.今回その質問に答える形で分かりやすく解説したのが本書である.著者は4人で,筆頭は大学で研究と教育に携わりながら自院で臨床医として義歯製作も行っている前畑香先生,病院歯科という環境で高齢者の義歯臨床に携わる鈴木宏樹先生,総義歯のスペシャリストとして臨床に講演にと活躍されまた現場で開業医を指導する松丸悠一先生,そして極めつけはまさに通院が難しくなりまた機能障害も併せ持つ患者さんに対し訪問歯科診療を行っている湯田亜希子先生である.
Q&Aというタイトルにあるように,内容は質問を50項目選択しそれにひとつずつ回答したものである.そのため読みやすく,また多くの図を用いているので理解しやすいものになっている.実際のコピーデンチャーの作製方法からはじまり,そこで湧いてくる疑問などについても丁寧に回答している.パーシャルデンチャーの複製方法にも触れられているし,訪問診療にどう活用するかも書かれている.単にコピーデンチャーについて書かれている本ではなくコピーデンチャーを軸として,実践的な無歯顎臨床の実際について書かれた本であり,最後にはメインテナンスにまで触れられている.無歯顎臨床に興味を持つ人必読の本である.ちなみに49頁と56頁に私の名前が登場するので,特にそこだけは,読み飛ばしの無いように心がけていただきたい.
評:村岡秀明(千葉県市川市開業)
[日本顎咬合学会誌『咬み合わせの科学』第43巻 第1号 2023 掲載]
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このたび、日本顎咬合学会誌『咬み合わせの科学』に書評を掲載いただきましたのでご紹介いたします。
今回は、『コピーデンチャーズ Q&A』の書評を、村岡秀明 先生(千葉県市川市開業)に執筆いただきました。是非ご一読ください。