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刊行にあたって
長らく保険診療における修復物は、鋳造歯冠修復が中心となってきた。しかし、2014年にCAD/CAM冠が保険収載になってから、国の方針や歯科医師および患者の意識に少しずつだが変化が現れていると思われる。
金属は金属アレルギー、細菌付着性やアレルゲンなどの生体親和性の部分で問題視されてきた。加えて、金属価格の市場変動が大きく、時勢に合わせた保険点数の改定は困難な状況である。近年、貴金属やパラジウムなどの価格が高騰したことが、歯科界に大きな変化をもたらした原因の1つであると考えられる。
2024年6月からは、単冠の鋳造歯冠修復から補綴維持管理料が廃止され、金属に頼らない修復物が主流になる方向性は確実であるとみられる。
2014年に最初に収載されたCAD/CAM冠においては、導入後の予後について、いくつかの研究報告によれば、当初の予想よりもよい結果を出しており、脱離や破折などの合併症の発生率が低く、審美的・機能的な患者満足度も高いことが報告されている。保険診療でもメタルフリーを目指す大きなソリューションの1つとなったことはいうまでもない。
2022年に収載されたCAD/CAMインレーは、ダイレクトコンポジットレジンの欠点である隣接面コンタクトの回復の困難性と、不完全な重合による残留モノマーの問題を解決できる。また、接着性修復による二次う蝕の低減や、従来のインダイレクトのコンポジットレジンインレーの保険点数の低さも改善され、多くの点で評価される。
2024年6月からは口腔内光学印象装置(IOS)による印象加算も収載された。適合精度の向上と通常印象の不快感をなくし、印象材と石膏模型の無駄を排することもできて、時代のトレンドに合った保険収載であると考えられる。
PEEK材が2023年12月より突然ともいうべきタイミングで保険収載になり、すべての大臼歯に適用になったことには驚きを隠せなかったが、従前までは医科から金属アレルギーの診断書をもらわなければ、メタル修復の選択肢しかなかった第2大臼歯と第3大臼歯にメタルフリーの選択肢ができたことを勘案すれば、保険収載は英断であったと関係各位に敬意を評したい。
ただし、CAD/CAM冠・インレーやPEEK冠は、いままで学校教育で取り入れられていなかったことから、理工学的な知識や金属修復とはまったく異なる形成や接着の理論と手技について、必ずしも保険医全般に周知徹底されているとはいえない。そのため、早急に臨床応用上の留意点を示す必要性を感じる。
本書では、CAD/CAM冠の保険収載にあたり、デジタル歯科黎明期より、デジタルによる加工方法やマテリアルの開発、臨床試験などに大きく貢献されてきた疋田一洋教授(北海道医療大学歯学部)に、保険診療分野でのデジタル技術の応用におけるこれまでの経緯や理工学的な知見、算定方法などについて、専門的な見地でご執筆いただいた。加えて、臨床部分の記載への監修をお願いすることができた。
本書が先生方のデジタルの保険診療への一助になれば幸甚である。
2025年1月
草間幸夫
CONTENTS
疋田一洋(ひきた かずひろ)
北海道医療大学歯学部
口腔機能修復・再建学系 デジタル歯科医学分野
1987年 北海道大学歯学部卒業
1991年 北海道大学大学院修了(歯学博士)
1991年 北海道大学歯学部歯科補綴学第二講座 助手
1999年 北海道医療大学医療科学センター 講師
2002年〜2003年 ベルギー王国ルーベンカソリック大学 客員教授
2004年 北海道医療大学個体差医療科学センター 助教授
2012年 北海道医療大学歯学部口腔機能修復・再建学系高度先進補綴学分野 准教授
2015年 北海道医療大学歯学部口腔機能修復・再建学系デジタル歯科医学分野 教授
現在に至る
草間幸夫(くさま ゆきお)
東京都・西新宿歯科クリニック
1979年 城西歯科大学卒業
1991年 医療法人社団 研整会 西新宿歯科クリニック開設
2006年 ISCD(International Society of Computerized Dentistry)CEREC Trainer
2007年 JSCAD(Japanese Society of Computer Aided Dentistry)副会長
2012年 JSCAD 会長(~2020年)
2013年〜 ISCD CEREC International instructor
現在に至る
Dentsply Sirona Japan インストラクター
Ivoclar Vivadent インストラクター
Ivoclar Vivadent アジアン・オピニオンリーダー
CAMLOGインプラントシステム公認インストラクター
日本デジタル歯科学会 理事
日本口腔インプラント学会会員 専門医
日本歯科理工学会 会員
Academy of Digitalized Dentistry Founder
本のエッセンスは、書籍の「はじめに」や「刊行にあたって」に詰まっています。
この連載では、編集委員や著者が伝えたいことを端的にお届けするべく、おすすめ本の「はじめに」や「刊行にあたって」、「もくじ」をご紹介します。
今回は、『保険改定対応 CAD/CAM修復物入門 CAD/CAM冠、CAD/CAMインレー、PEEK冠導入ガイド』です。