2024年の診療報酬改定でエンドクラウンも新規保険収載に。低侵襲な修復治療としても注目を集めるエンドクラウンについて。

低侵襲な修復治療としても注目を集めるエンドクラウンが2024年の診療報酬改定で保険収載される予定です。
デンタルダイヤモンド2023年9月号では巻頭特集としてエンドクラウンを取り挙げました。今回、巻頭特集記事の冒頭部分を無料公開いたします。ぜひこの機会にご覧ください!

 CAD/CAMシステムの進歩や接着技術の向上により、エンドクラウン製作が可能となり、近年、その重要性が増しています。低侵襲を特徴とするエンドクラウンは、根管治療後の歯の修復において、従来の全部被覆冠と比較して多くの利点をもっています。
 本記事では低侵襲な修復治療として注目を集めるエンドクラウンについて、その基本的な情報から特長および有用性、脱離を防ぐ接着のポイントまで幅広く解説していきます。

[デンタルダイヤモンド 2023年9月号 巻頭特集より]

エンドクラウンに寄せられる期待

 
 近年、「エンドクラウン」と呼ばれる修復治療が注目されている。これは従来のポストクラウン(歯冠継続歯)とは異なる概念で、CAD/CAM技術と健全歯質の切削量を必要最低限に抑えるミニマルインターベンション(MI)の思想が結合した、新しい低侵襲な修復治療方法である。
 過去には、大臼歯の根管治療後の補綴治療として、脱離防止や歯根破折防止の観点から支台築造後に全部被覆冠など外側性の補綴装置を選択してきた。とくにCAD/CAM材料による全部被覆冠(従来型クラウン)を選択すると歯質の削除量が多くなることに加え、対合歯までのクリアランスや支台歯の軸面の高さが不足する場合、クラウンの脱離やチッピングのリスクが高くなる。
 一方で、エンドクラウンは支台築造が不要で、ポストも必要ないため、クリアランス不足の症例でもCAD/CAM材料を用いた修復治療を実行できる。また、エンドクラウンは口腔内スキャナとの相性もよく、海外で多数の臨床研究が報告されており、大臼歯に対するCAD/CAM技術を利用した低侵襲な修復治療として期待が寄せられている。
 本特集では、エンドクラウンに関する基礎研究や臨床研究を文献学的に検討し、実際の臨床での材料選択や形成方法、接着に関する注意点など、さまざまな角度から議論する。
筆者らのエンドクラウンに関する知見が、多くの臨床家にとって有用であれば、それが最大の喜びである。

エンドクラウンの歴史

 エンドクラウンは2000年代初頭に導入された比較的新しい補綴装置であり、従来型クラウン修復に対する新しい選択肢として提案された。この補綴装置の概念は、1995年にPissisにより初めて報告された1)。それは、支台築造を必要とせず、歯に直接接着されるモノリシックな補綴装置で歯冠を修復するという現在のエンドクラウンの基盤となるものであった。
 この時点ではエンドクラウンという名称は用いられておらず、その名称は1999年にBindlとMörmannによって初めて提唱された2)。なお、Mörmannは、チェアーサイド型歯科用コンピュータ支援設計・製造ユニット(セレック:デンツプライシロナ)の開発者である。
その後、エンドクラウンはCAD/CAMのモノブロック加工技術の進歩とともに発展し、欧米を中心に認知が広がった。2000年代から、エンドクラウンに関するさまざまな基礎研究や臨床研究によって、その有効性が検討された。
 2020年3)と2021年4)のメタアナリシスでは、臨床研究の予後を統計解析した結果、小臼歯と大臼歯の両方に適用できるというエビデンスが示された。また、2021年にはヨーロッパ歯内療法学会のポジションステートメントにも選択肢として掲載された5)
 エンドクラウンは海外で広く認識され、多くの歯科医師によって実践されているが、2023年現在、国内では大学関係者や一部の臨床家に認識が限られている。この情報格差の問題を解消するため、本特集ではエンドクラウンについて詳しく紹介する。

エンドクラウンの特長

 エンドクラウンと従来型クラウンの違いをエンドクラウンの特長表1に示す。エンドクラウンと従来型クラウンの構造上の大きな違いは、根管へのポスト形成や支台築造が不要な点である。
 健全歯質が多く残存している症例やクリアランスが不足している症例は、従来型クラウンよりもエンドクラウンのほうが適している。たとえば、局所的な深いう蝕から根管治療に至ったケースなどの健全歯質が多く残存している患歯でも、従来型クラウンを適応すると、支台歯形成により結果的に多くの歯質が失われてしまう。このような症例にエンドクラウンを適応すれば、従来型クラウンよりも多くの健全歯質を残したまま補綴が可能となる。
 また、クリアランスが不足している症例においては、エンドクラウンは支台築造が不要なため、従来型クラウンと比較して補綴装置の厚みを確保しやすい(図1※詳細は本誌にてご覧ください)。そのため、従来型クラウンでは、クリアランス確保のために対合歯の切削やクラウンレングスニング等の処置が必要となる症例でも、エンドクラウンの適応によってこれらの処置を回避、またはそれによる侵襲を最小限にできる可能性がある。
 エンドクラウンを選択するメリットは、補綴装置製作に伴う歯質切削量が少ないという点だけではなく、支台歯形成による歯周組織への侵襲が少ないこともメリットの1つである。エンドクラウンの形成では、基本的にフェルールを付与せず、フィニッシュラインは歯肉縁上のバットジョイントとする。つまり、従来型クラウンのように積極的にフェルールを確保する必要性がなく、フェルールの確保を目的としたクラウンレングスニングや矯正的挺出などの処置は不要である。そのため、エンドクラウンの形成は、従来型クラウンと比較して骨縁上組織付着(生物学的幅径)を侵害しにくい。
 その他のメリットとしては、支台築造が不要であるため、チェアータイムや来院回数の短縮が期待できること、再根管治療時に根管内ポストの除去が不要であること、ポスト形成に伴う根管内汚染のリスクがないこと、根管治療終了後から光学印象を用いたフルデジタルワークフローによる製作が可能であることが挙げられる。
 しかし、エンドクラウンを臨床で行う際には、審美性の問題や製作上の制限に注意が必要である。エンドクラウンは歯肉縁上にバットジョイントのマージンを設定するため、第1小臼歯などの審美領域にエンドクラウンを適応するとセメントラインが見えてしまう可能性がある。また、歯冠軸と歯根の方向が極端に異なる症例、とくに歯根が近遠心に傾斜している場合には注意が必要である。このようなケースでは隣接歯が装着方向に対してアンダーカットになるため、適切な隣接面形態が付与できず、装着が困難になることもある。


表❶ エンドクラウンと従来型クラウンの違い。もう一方に対してとくに優位性があるものを赤囲みで示す
表❶ エンドクラウンと従来型クラウンの違い。もう一方に対してとくに優位性があるものを赤囲みで示す

【参考文献】

1)Pissis P: Fabrication of a metal-free ceramic restoration utilizing the monobloc technique. Pract Periodontics Aesthet Dent, 7(5): 83-94, 1995.
2)Bindl A , Mörmann WH: Clinical Evaluation of Adhesively Placed CEREC Endo-Crowns after 2Years Preliminary results. J Adhes Dent, Autumn;1(3): 255-265, 1999.
3)Thomas RM, et al: Comparing endocrown restorations on permanent molars and premolars: a systematic review and meta-analysis. Br Dent J,2020. doi: 10.1038/s41415-020-2279-y.
4)Al-Dabbagh RA:Survival and success of endocrowns: A systematic review and metaanalysis. J Prosthet Dent, 125(3): 415. e1-415. e9, 2021. doi: 10.1016/j.prosdent.2020.01.011.
5)European Society of Endodontology developed by:; Francesco Mannocci, et al: European Society of Endodontology position statement: The restoration of root filled teeth. Int Endod J, 54(11): 1974-1981, 2021.


  • エンドクラウンの臨床成績
  • エンドクラウンとポストクラウンの違い
  • 材料
  • 形成
  • 形成例
  • 接着
  • 症例供覧
  • 今後の展望