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『ねるじかん』
絵本を選ぶときに、対象年齢や子どもの好みだけではなく、季節感にも目を向けると、選書の幅が広がるといわれています。四季の移ろいがある日本では、季節や行事をテーマにした絵本がたくさん出版されていますから、よい着眼点だと思います。
しかし、待合室の絵本となると設置スペースも限られるため、特定の季節やイベントをピンポイントで扱う作品を揃えるのは、なかなか難しいですよね。そのため待合室には、季節を感じられつつも、1年をとおして楽しめる絵本が求められるのではないでしょうか? そんな一例として、今月は『ねるじかん』をご紹介します。
10月のイベントであるハロウィンを意識しつつ本作品を選びましたが、オバケや恐ろしい仮装などは1つも登場しません。それでも、ちょっぴり恐くてドキドキしながら「夜の世界」を感じることができる、ハロウィンテイストの絵本です。
ねるじかん……、それは私たちを夜という異世界へ誘う呪文のようなもの。夜が更けて、かあさんが「もう寝る時間よ‼」と声をかけますが、男の子は全然眠れません。すると、突然「ぐにゅぐにゅ~」と歪む壁。何か変だと思ったら、窓の外を魚が飛び、ビー玉の星や走り回るポストが見えてきました。さらには、迷子になった恐竜の子どもたちまで現れ、魔訶不思議な世界が視界いっぱいに広がります。
誰もが「これは夢のなかの物語だ‼」と考えることでしょう。なぜなら、横にいるかあさんには、何も見えていないのですから。でも、単純に夢と決めつけるのは早計です。最終ページのとある光景を見れば、読者は夢と現実の狭間にある「異世界の迷宮」に迷い込んでしまうはず。夢か現か幻か……、そんな言葉がピタリとはまる結末を迎えます。
というわけで、この絵本は寝かしつけ絵本ではなく、むしろ眠れなくなる絵本です‼ でも、時間を忘れて楽しめるので、待合室で読むには最適です。
おひさま堂 書籍部
大橋悦子
歯科衛生士向け月刊誌『DHstyle』より、歯科医院の待合室にぴったりの素敵な絵本をご紹介いたします。今回は、『ねるじかん』です。