Q&A 口腔外科 抜歯窩は開放創? 閉鎖創?|デンタルダイヤモンド 2023年8月号

学術・経営・税務・法律など歯科医院での治療・経営に役立つQ&Aをご紹介いたします。今回は、月刊 デンタルダイヤモンド 2023年8月号より「抜歯窩は開放創? 閉鎖創?」についてです。

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抜歯後の感染リスクが低いのは、開放創と閉鎖創のどちらでしょうか。また、どちらを選択するか判断基準を教えてください。
●茨城県・T歯科医院

抜歯後の対応として、創を開いたままにする「開放創」(図1)と、創を閉じる「閉鎖創」(図2)の2つの方法があります。
 開放創は抜歯窩から滲出液や血液が自然に排出されるため、抜歯後の過度の腫脹や感染リスクを低減することが期待されます。また、嫌気的条件が形成されにくくなることにより、嫌気性菌による細菌感染を予防できます。ゆえに、抗菌薬が普及する以前は開放創にすることが基本的な考え方でした。このような理由から強い感染を伴う状況で抜歯せざるを得ない場合や、ドレナージ効果を求める場合には開放創を選択します。
 一方、閉鎖創は縫合して抜歯窩を閉じるため、止血効果に優れ、歯槽骨の露出を予防し、外界からの細菌や食物残渣の侵入を防ぐことも可能です。このため、出血リスクが高い場合やMRONJのリスクを伴う場合には基本的に閉鎖創を選択します。しかしながら、死腔を形成する可能性があるため、より適切な抗菌薬使用を検討する必要があります。
 近年、全身の各領域において抗菌薬の適切な使用法が定められています。「術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン」1)において、口腔内手術は準清潔創に相当し、SSIリスクを伴う場合および下顎埋伏智歯抜歯術に際しては抜歯1時間前(アモキシシリン250mg~1g、他)および術後48時間の服用が推奨されています。また、感染性心内膜炎リスクを伴う場合には抜歯1時間前の抗菌薬服用(アモキシシリン2g、他)が推奨されております(詳細はガイドラインを参照ください)。
 また、骨修飾薬を使用中あるいは使用歴のある患者に対しては、MRONJ(medication-related osteonecrosis of jaw:薬剤関連顎骨壊死)が生じる可能性について検討を要します。最新のポジションペーパー(2023)2)においては、「抜歯窩の骨鋭縁はできるだけ削合し、粘膜骨膜弁で閉鎖することが望ましい」としながらも「無理な完全閉創は行わず、上皮化の進行を確認しながら治癒を期待する方法もある」としており、前述の要件を勘案して判断する必要があるかと思われます。  このように、臨床の現場では、抜歯窩の大きさや形態、抜歯の難易度、術中の出血量・滲出液の量、患者固有の要素(口腔内の状態や全身状態など)を総合的に評価し、適切な抗菌薬の使用法と合わせて抜歯窩への対応を選択することが重要です。


図❶ 開放創(抜歯直後)。閉創せず抜歯窩を開放したままとしている

図❷ 閉鎖創(抜歯直後)。3-0絹糸を用いて縫合し、閉鎖創としている

【参考文献】

1)竹末芳生,岸本裕充,他:術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン(2016年).http://www.gekakansen.jp/file/antimicrobial-guideline.pdf.(2023年6月12日アクセス).
2)岸本裕充,萩野浩,他:薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023.https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/2023/0217_1.pdf.(2023年6月12日アクセス).
3)坪井長裕,内田堅一郎,他:当科における薬剤関連顎骨壊死に関する検討.日口外誌 63 :645-652.2017.

木村大志 莇生田整治 中川種昭
●慶應義塾大学医学部 歯科・口腔外科学教室

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