- 私は令和元年5月に歯科医院を開設しました。開設した年度(令和元年度)は、原則として消費税の納税義務者にはなりませんでした。しかし、開業に伴う設備投資にかかわる消費税の還付を受けるために消費税の課税事業者の届出をしましたので、令和元年度は消費税の還付を受けて、令和2年度と3年度は消費税の納税をしました。そして、令和4年度は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下となりましたので、令和3年に免税事業者になる旨の届出書を提出していますが、免税事業者となっている当院では、令和5年10月1日から導入される消費税のインボイス制度について準備の必要がありますか。 静岡県・E歯科クリニック
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1.インボイス制度の概要
令和5年10月1日から新しく消費税のインボイス制度が始まります。インボイス制度とは、正式には「適格請求書等保存方式」と呼ばれ、商品やサービスを購入した事業者が消費税を税務署に納付する際、仕入税額控除額を正しく計算するために導入されました。
ここでいう「インボイス」とは、売り手が買い手に対して正確な消費税の適用税率や税額などを伝えるための書類で、正式には「適格請求書」と呼ばれます(以下、適格請求書を「インボイス」、適格請求書を発行できる事業者を「インボイス発行事業者」)。
1)インボイスに記載すべき事項(表1)
これらを記載したインボイスにより、買い手は売り手に消費税としていくら支払ったか
が明確となります。
現行の請求書様式である「区分記載請求書」には登録番号、適用税率および税率ごとに区分した消費税額などの記載はありませんでしたので、令和5年10月1日からは、従前の請求書様式に登録番号、適用税率および税率ごとに区分した消費税額などを記載したインボイスの発行が必要となります。2.歯科医院における消費税のインボイス制度に対する準備
1)歯科医院がインボイス発行事業者になる必要があるか
①免税事業者である場合
歯科医院における消費税の課税売り上げの対象となる収入は、自由診療収入、雑収入(歯ブラシなどの物品販売・金属屑の売却等)および、車両等固定資産の売却収入であり、保険診療収入は消費税が非課税とされています。
したがって、消費税の基準期間の課税売り上げ高が1,000万円以下の歯科医院は、消費税の免税事業者となりますので、インボイス発行事業者の登録申請書について、提出の必要はありません。
なお、金属屑の買い取り業者が消費税の課税事業者である場合には、免税事業者である歯科医院はその金属屑の買い取り価額についてインボイスを発行できません。したがって、金属屑の買い取りの際に控除できない消費税相当の値引きの要請がなされることが考えられます。
②課税事業者の場合
歯科医院の自由診療収入などの消費税の課税売り上げ高が1,000万円を超える場合には、消費税の課税事業者となりますので、インボイス発行事業者の登録申請書を提出して登録番号を取得してください。
歯科医院の患者は消費税の最終消費者となり、消費税の課税事業者とはなりませんので、領収書などにインボイスの登録番号を記載する必要がありません。しかし、金属屑の買い取り事業者は通常消費税の課税事業者とされますので、その金属屑の売却代金の領収書には登録番号を記載してください。
2)仕入先などがインボイス発行事業者であるかの確認
①免税事業者である場合
消費税の課税売り上げ高が1,000万円以下の免税事業者の場合は、消費税の納税義務がありませんので、材料の仕入先や外注技工先がインボイス発行事業者であるか否かの確認の必要はありません。
②課税事業者である場合
消費税の課税事業者とされる歯科医院が消費税の「仕入税額控除」を受けるためには、インボイス発行事業者の発行するインボイスの取得が必要となります。したがって、インボイス発行事業者であるか否かの確認が必要となります。
なお、歯科医院が消費税の課税事業者であっても、消費税の課税について「簡易課税制度選択届出書」を提出している場合には、消費税の「仕入税額控除」は法定割合によりますので、仕入れ先などがインボイス発行事業者であるかの確認は必要ありません。表❶ インボイスに記載すべき事項
今村 正
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学術・経営・税務・法律など歯科医院での治療・経営に役立つQ&Aをご紹介いたします。今回は、月刊 デンタルダイヤモンド 2022年10月号より「歯科医院における消費税のインボイス制度」についてです。