小児における癒合歯を診る際のポイント
●小児歯科における癒合歯を診る際のポイント、また保護者への説明のポイントを教えてください。
──石川県・N歯科
1.癒合歯を診る際のポイント
癒合歯は2つ以上の歯が癒合したもので、乳歯、永久歯ともに認められますが、頻度としては乳歯に多く、乳歯では1〜5%、永久歯では0.2〜0.3%という発現頻度が報告されています1)。好発部位は下顎の前歯部であり、乳中切歯と乳側切歯または乳側切歯と乳犬歯の癒合が多くみられ、次いで上顎の乳中切歯と乳側切歯の癒合が多くみられますが、臼歯部の癒合は稀です。
癒合歯はその結合状態から、以下の3つに分類されます。
1)癒着歯:2つの歯胚のセメント質の部分のみが結合したもの
2)癒合歯:2つの歯胚が象牙質部分を含めて結合したもの(狭義の癒合歯)
3)双生歯:1つの歯胚から2つの歯に分かれて結合しているもの
また、歯冠の結合部分に溝が生じていると、う蝕罹患性が高くなります。
癒合歯の存在は、歯列、咬合にも影響を及ぼしやすいとともに、歯列空隙量の増大や歯列弓長の短縮が生じやすくなります。また、被蓋関係への影響としては、下顎歯列に癒合歯があると過蓋咬合が、上顎歯列にあると切端咬合や反対咬合が生じやすくなります。したがって、歯列および咬合状態のチェックや、その変化を診ていく必要があります。
乳歯が癒合歯の場合、後継永久歯にも歯の異常が生じやすくなるため、X線検査によって後継永久歯の状態を診査する必要があります(図1)。乳歯が癒合歯の場合、後継永久歯に先天欠如がみられる割合は40〜50%と高く1)、永久歯が正常に2本存在する割合は同程度、後継永久歯も癒合歯の割合は10%程度といわれています。また、下顎の乳側切歯と乳犬歯の癒合のほうが、乳中切歯と乳側切歯の癒合よりも、後継永久歯の先天欠如の割合が高いことも報告されています2)。
乳歯の癒合歯は、後継永久歯の状況によっては交換期に歯根の吸収不全を生じることがあります。とくに、後継永久歯が2本存在する場合、それぞれの萌出時期が異なることから歯根の一部が吸収されずに残ってしまい、永久歯の萌出困難を招くこともあるため、注意が必要です。
図1 図(1) 4歳児のの癒合歯(a)。X線写真(b)からは、後継永久歯も歯冠幅径が大きく、癒合歯の可能性が高いことがわかる
2.保護者への説明のポイント
癒合歯のある小児の保護者への説明では、癒合歯はそれほど稀なものではなく、早急な対応が必要なものでもないことを説明し、低年齢児ではまずう蝕予防を図りながら経過をみていくことを勧めます。ブラッシング指導を行うとともに、癒合部に溝がある場合は予防填塞を勧めるとよいでしょう。
3〜4歳を過ぎた小児では、後継永久歯の数や発育状態を確認するためにX線写真を撮影する必要性があることを説明します。とくに交換期が近づいたら、定期的にX線写真によるチェックを行って、乳歯癒合歯の歯根の吸収不全が生じていないかを確認しましょう。後継永久歯が2本あると、癒合歯の歯根の吸収不全が起こりやすく、永久歯の萌出誘導のために歯冠の分割や抜去などの処置が必要になることが多いことも伝えておきましょう。
癒合歯による歯列および咬合の問題に対しては、乳歯列期は経過観察を行うことが多いですが、永久歯への交換後にも問題が認められた場合は、保護者と相談して矯正的な対応を検討する必要があります。
【参考文献】
癒合歯は2つ以上の歯が癒合したもので、乳歯、永久歯ともに認められますが、頻度としては乳歯に多く、乳歯では1〜5%、永久歯では0.2〜0.3%という発現頻度が報告されています1)。好発部位は下顎の前歯部であり、乳中切歯と乳側切歯または乳側切歯と乳犬歯の癒合が多くみられ、次いで上顎の乳中切歯と乳側切歯の癒合が多くみられますが、臼歯部の癒合は稀です。
癒合歯はその結合状態から、以下の3つに分類されます。
1)癒着歯:2つの歯胚のセメント質の部分のみが結合したもの
2)癒合歯:2つの歯胚が象牙質部分を含めて結合したもの(狭義の癒合歯)
3)双生歯:1つの歯胚から2つの歯に分かれて結合しているもの
また、歯冠の結合部分に溝が生じていると、う蝕罹患性が高くなります。
癒合歯の存在は、歯列、咬合にも影響を及ぼしやすいとともに、歯列空隙量の増大や歯列弓長の短縮が生じやすくなります。また、被蓋関係への影響としては、下顎歯列に癒合歯があると過蓋咬合が、上顎歯列にあると切端咬合や反対咬合が生じやすくなります。したがって、歯列および咬合状態のチェックや、その変化を診ていく必要があります。
乳歯が癒合歯の場合、後継永久歯にも歯の異常が生じやすくなるため、X線検査によって後継永久歯の状態を診査する必要があります(図1)。乳歯が癒合歯の場合、後継永久歯に先天欠如がみられる割合は40〜50%と高く1)、永久歯が正常に2本存在する割合は同程度、後継永久歯も癒合歯の割合は10%程度といわれています。また、下顎の乳側切歯と乳犬歯の癒合のほうが、乳中切歯と乳側切歯の癒合よりも、後継永久歯の先天欠如の割合が高いことも報告されています2)。
乳歯の癒合歯は、後継永久歯の状況によっては交換期に歯根の吸収不全を生じることがあります。とくに、後継永久歯が2本存在する場合、それぞれの萌出時期が異なることから歯根の一部が吸収されずに残ってしまい、永久歯の萌出困難を招くこともあるため、注意が必要です。
図1 図(1) 4歳児のの癒合歯(a)。X線写真(b)からは、後継永久歯も歯冠幅径が大きく、癒合歯の可能性が高いことがわかる
2.保護者への説明のポイント
癒合歯のある小児の保護者への説明では、癒合歯はそれほど稀なものではなく、早急な対応が必要なものでもないことを説明し、低年齢児ではまずう蝕予防を図りながら経過をみていくことを勧めます。ブラッシング指導を行うとともに、癒合部に溝がある場合は予防填塞を勧めるとよいでしょう。
3〜4歳を過ぎた小児では、後継永久歯の数や発育状態を確認するためにX線写真を撮影する必要性があることを説明します。とくに交換期が近づいたら、定期的にX線写真によるチェックを行って、乳歯癒合歯の歯根の吸収不全が生じていないかを確認しましょう。後継永久歯が2本あると、癒合歯の歯根の吸収不全が起こりやすく、永久歯の萌出誘導のために歯冠の分割や抜去などの処置が必要になることが多いことも伝えておきましょう。
癒合歯による歯列および咬合の問題に対しては、乳歯列期は経過観察を行うことが多いですが、永久歯への交換後にも問題が認められた場合は、保護者と相談して矯正的な対応を検討する必要があります。
- 1)福本 敏,他:第5章 歯の発育と異常.白川哲夫,他(編):小児歯科学 第5版.医歯薬出版,東京,2017:62-90.
- 2)辻野啓一郎,他:乳歯癒合歯の歯種と後継永久歯先天性欠如との関連について.小児歯科学雑誌,36:861-866,1998.
井上美津子
●昭和大学歯学部 小児成育歯科学講座 客員教授