歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド

衛生士,歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド
TopQ&A口腔外科 > アンキローシスを生じた歯の抜歯処置のコツ(2019年8月号)
Q&A
口腔外科 (2019年8月号)
Q アンキローシスを生じた歯の抜歯処置のコツ
●このところ、アンキローシスを有する高齢患者が増えており、抜歯に非常に多くの時間を要してしまいます。アンキローシスの患者に対する抜歯のコツを教えてください。
──東京都・G歯科医院
A
 アンキローシスとは、歯が健全な歯根膜を介さずに、歯槽骨とセメント質または象牙質が石灰化癒合をしている状態を指します。発育不全、外傷、代謝障害、咬合機能の喪失などが要因として考えられていますが、原因があきらかでない場合も少なくありません。発生頻度は、乳歯では1.5?9.9%、永久歯では乳歯の10分の1程度とされ、それほど多くありません。しかし、抜歯や歯の再植などの外科的歯科治療や、歯の移動や牽引などの歯科矯正治療を困難なものとします。
 アンキローシスの診断には、歯の生理的動揺の有無や打診音、またX線画像検査における歯根の外形の消失、すなわち歯根膜腔および歯槽硬線の有無やセメント質の過形成などの所見が有用となります。近年普及が進んでいるコーンビームCT検査では、三次元的な歯根および歯根膜腔の状態を知ることができるため、診断に有効です。
 アンキローシスが生じている歯の抜歯処置では、ヘーベルを歯根膜腔に挿入して歯を脱臼させるという操作が困難となります。画像検査で歯根の形態を十分に把握し、また歯質と骨の色や硬さの違いを頼りに、ダイヤモンドバーにて歯根の外形をなぞるか、あるいは人工的に境界を形成し、骨と歯質を分離させてヘーベルにて脱臼させます(図1)。境界が不明瞭の場合は、歯質として疑わしい部分をダイヤモンドバーで切削する作業も必要になります。歯根周囲の骨が硬化している、あるいはセメント質が過形成されている場合、抜歯はより困難となります。
 アンキローシスのため萌出していない歯の抜歯も難症例になります。処置に際して、CT検査は歯根の三次元的な形態を把握するだけでなく、下顎管や上顎洞などの隣在重要組織との位置関係を把握できるため、安全な術式の検討に有用です。抜歯後に抜歯窩からの出血が少ない場合は、ドライソケットにならないように抜歯窩を粘膜で可及的に閉鎖することが必要です。術後にはX線検査を行い、歯質が残留することなく抜歯できたか評価します。
 長時間に及ぶ局所麻酔下での手術操作は、患者に多大な身体的・精神的ストレスを与えることとなります。筆者らの病院では、アンキローシスが疑われる埋伏歯などは、全身麻酔にて抜歯することもあります。抜歯困難が予想される症例に対しては、知識と技術を習得することはもちろんのこと、インフォームド・コンセントと病診連携が重要です。抜歯困難となる可能性について術前に患者に詳細な情報提供を行い、できれば手術同意書の取得が望ましいと思います。当該歯へのアプローチを開始した後にそれらの説明がなされると、患者の信頼を失いかねません。
 処置が長時間に及んだ場合などは、“処置を中断する勇気”も必要と考えます。また、そのような場合に紹介できる口腔外科医と常日頃から連携をとっておく必要もあるかと思います。紹介先の口腔外科および歯科口腔外科の先生と顔なじみであることは、“処置を中断する勇気”を後押しし、患者ならびに歯科医師の先生自身に良好な結果をもたらします。

歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド

図1 a:6は外傷の既往があり、歯根の内部吸収とアンキローシスを認めた。b:ダイヤモンドバーにて歯根周囲の骨を慎重に削合し、ヘーベルを用いて抜歯した


松田慎平 吉村仁志
●福井大学学術研究院 医学系部門医学領域
感覚運動医学講座 歯科口腔外科学分野


衛生士,歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド
<<口腔外科一覧へ戻る
※過去に制作したものなので、現在の法令と異なる場合がございます。
衛生士,歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド
衛生士,歯科,dental,Dental Diamond,デンタルダイヤモンド