フッ化物の1日における適性摂取量の目安
●米国では、フッ化物は栄養素の一つとして1日の適性摂取量などが決まっていると聞きました。おおよその目安量と、摂取過多および摂取過少による弊害を教えてください。
──茨城県・Iデンタルクリニック
1.米国ではフッ化物摂取基準値が示されている
米国では1日のフッ化物摂取量について、どれくらいの量が適正なのかという「適正摂取量:AI(adequate intake)」と、これ以上摂取すると慢性毒性が発現するおそれがあるという「許容上限摂取量:UL(tolerable upper intake level)」を定めています。日本の厚生省(1994年当時)が監修した「第五次改定日本人の栄養所要量(2005年版)」の参考資料5「諸外国の栄養所要量」にも紹介されていますので、そちらをご覧ください。
米国のフッ化物適正摂取量(AI)は、統計学的有意にう蝕を予防する量として、1日に体重1kgあたり0.05mgのフッ化物量、つまり、0.05mg F/kg・日とされています。体重65kgの成人では、1日あたり3.25mgのフッ化物摂取量に相当します。日本の成人が飲食物から1日に摂取するフッ化物量は0.48〜2.64mgと推定されていますので、不足分をフッ化物応用などで補うことになります。世界保健機関(WHO)でも「住民に中等症以上の歯のフッ素症を発現させることなく、最大限にう蝕を減らす摂取量」として0.05mg F/kg・日を紹介しています。
許容上限摂取量(UL)は、外観上許容できない変化である中等症(moderate)以上の歯のフッ素症の発現を防ぐことを考慮し、まずは適正摂取量の2倍である0.1mg F/kg・日が定められています。ただし、この基準が適用されるのは、第3大臼歯以外の永久歯に歯のフッ素症が発現するリスク期間である、歯の石灰化が始まって歯冠が完成する、出生から8歳までです。9歳以降は骨フッ素症の発現予防に切り替わります。9〜50歳までは、年齢や体重に関係なく、1日に10mgのフッ化物摂取量が許容上限摂取量(UL)とされています。
2.日本におけるフッ化物摂取基準
米国ではフッ化物による慢性毒性を発現させずに、効果的にう蝕を予防するフッ化物摂取量が定められていますが、日本人の食事摂取基準(2015年版)にフッ化物摂取量は収載されていません。ただし、2007年に厚生労働科学研究班が作成した「ライフステージに応じたフッ化物摂取基準」を日本口腔衛生学会が承認し、引き続き日本歯科医学会でも承認され、厚生労働省に提案した経緯があることを紹介しておきます。
これによれば、米国と同じ0.05mg F/kg・日を基準に、各年齢階級の基準体重からAI(この基準では目安量とされている)が計算されています。また、UL(この基準では上限量とされている)では、9歳までは0.1mg F/kg・日を基準にしていますが、10歳以降は一律1日に6.0mgのフッ化物摂取量とされています。
3.フッ化物の摂取が不足するとどうなるか
フッ素は、生体を構成する元素のうち鉄の次に多く含まれている生体微量元素の一つで、身体全体の平均では42.8ppm(体重1kgあたり42.8mgのフッ化物が含まれている)になります。生体微量元素のうち、生命と健康の維持に摂取が不可欠なものを必須微量元素といいます。コバルト、クロム、マンガンなどもこれに入り、哺乳動物の実験で、フッ化物摂取不足は成長発育の抑制や見込み寿命の減少などが認められたことから、「おそらくの必須微量元素」として位置づけられています。
国連食糧農業機関(FAO)とWHOは「人の栄養所要量ハンドブック(1974年)において「フッ素は正常な骨および歯組織に存在する元素であり、その適当量を摂取することは歯に対して最高のう蝕抵抗性を与えるために不可欠であり、こうした理由によってフッ素は必須栄養素と考えられる。その効果は若年齢の小児期において顕著であるが、生涯を通じて持続する」と述べています。つまり、フッ化物摂取が不足するとう蝕に罹患しやすくなる、骨(歯周病に関連する歯槽骨を含めて)が脆弱化して骨粗鬆症(歯周病による骨喪失)になりやすくなることが考えられます。
ほかにも、フッ化物には、大動脈の石灰化の有所見者率を有意に低下させるという有益性が認められています。つまり、フッ化物を適正に摂取することにより、動脈硬化とそれに起因する狭心症や心筋梗塞、脳梗塞も予防されるという可能性が高いのです。
以上のように有益性の高いフッ化物を、歯科専門家として適切に利用して8020を達成し、健康寿命の延伸と生活の質(QOL)の向上に寄与していきましょう。
米国では1日のフッ化物摂取量について、どれくらいの量が適正なのかという「適正摂取量:AI(adequate intake)」と、これ以上摂取すると慢性毒性が発現するおそれがあるという「許容上限摂取量:UL(tolerable upper intake level)」を定めています。日本の厚生省(1994年当時)が監修した「第五次改定日本人の栄養所要量(2005年版)」の参考資料5「諸外国の栄養所要量」にも紹介されていますので、そちらをご覧ください。
米国のフッ化物適正摂取量(AI)は、統計学的有意にう蝕を予防する量として、1日に体重1kgあたり0.05mgのフッ化物量、つまり、0.05mg F/kg・日とされています。体重65kgの成人では、1日あたり3.25mgのフッ化物摂取量に相当します。日本の成人が飲食物から1日に摂取するフッ化物量は0.48〜2.64mgと推定されていますので、不足分をフッ化物応用などで補うことになります。世界保健機関(WHO)でも「住民に中等症以上の歯のフッ素症を発現させることなく、最大限にう蝕を減らす摂取量」として0.05mg F/kg・日を紹介しています。
許容上限摂取量(UL)は、外観上許容できない変化である中等症(moderate)以上の歯のフッ素症の発現を防ぐことを考慮し、まずは適正摂取量の2倍である0.1mg F/kg・日が定められています。ただし、この基準が適用されるのは、第3大臼歯以外の永久歯に歯のフッ素症が発現するリスク期間である、歯の石灰化が始まって歯冠が完成する、出生から8歳までです。9歳以降は骨フッ素症の発現予防に切り替わります。9〜50歳までは、年齢や体重に関係なく、1日に10mgのフッ化物摂取量が許容上限摂取量(UL)とされています。
2.日本におけるフッ化物摂取基準
米国ではフッ化物による慢性毒性を発現させずに、効果的にう蝕を予防するフッ化物摂取量が定められていますが、日本人の食事摂取基準(2015年版)にフッ化物摂取量は収載されていません。ただし、2007年に厚生労働科学研究班が作成した「ライフステージに応じたフッ化物摂取基準」を日本口腔衛生学会が承認し、引き続き日本歯科医学会でも承認され、厚生労働省に提案した経緯があることを紹介しておきます。
これによれば、米国と同じ0.05mg F/kg・日を基準に、各年齢階級の基準体重からAI(この基準では目安量とされている)が計算されています。また、UL(この基準では上限量とされている)では、9歳までは0.1mg F/kg・日を基準にしていますが、10歳以降は一律1日に6.0mgのフッ化物摂取量とされています。
3.フッ化物の摂取が不足するとどうなるか
フッ素は、生体を構成する元素のうち鉄の次に多く含まれている生体微量元素の一つで、身体全体の平均では42.8ppm(体重1kgあたり42.8mgのフッ化物が含まれている)になります。生体微量元素のうち、生命と健康の維持に摂取が不可欠なものを必須微量元素といいます。コバルト、クロム、マンガンなどもこれに入り、哺乳動物の実験で、フッ化物摂取不足は成長発育の抑制や見込み寿命の減少などが認められたことから、「おそらくの必須微量元素」として位置づけられています。
国連食糧農業機関(FAO)とWHOは「人の栄養所要量ハンドブック(1974年)において「フッ素は正常な骨および歯組織に存在する元素であり、その適当量を摂取することは歯に対して最高のう蝕抵抗性を与えるために不可欠であり、こうした理由によってフッ素は必須栄養素と考えられる。その効果は若年齢の小児期において顕著であるが、生涯を通じて持続する」と述べています。つまり、フッ化物摂取が不足するとう蝕に罹患しやすくなる、骨(歯周病に関連する歯槽骨を含めて)が脆弱化して骨粗鬆症(歯周病による骨喪失)になりやすくなることが考えられます。
ほかにも、フッ化物には、大動脈の石灰化の有所見者率を有意に低下させるという有益性が認められています。つまり、フッ化物を適正に摂取することにより、動脈硬化とそれに起因する狭心症や心筋梗塞、脳梗塞も予防されるという可能性が高いのです。
以上のように有益性の高いフッ化物を、歯科専門家として適切に利用して8020を達成し、健康寿命の延伸と生活の質(QOL)の向上に寄与していきましょう。
荒川浩久●神奈川歯科大学大学院 口腔衛生学講座