慢性部分性移動性歯髄炎

 「慢性部分性移動性歯髄炎」は造語であり、学術的に用いられている用語ではない。
現在、歯髄炎に関する診断名は、国内外を通して、抜髄すべきかどうかを判定するために「可逆性歯髄炎」、「不可逆性歯髄炎」という病名が使われている。口腔顔面痛において、歯痛診断を念頭に置き、とくに歯髄内で修復処置後に慢性的に進行する病態があるだろうという臨床的経験から作った診断名である。
修復処置後、数ヵ月、数年経過する間に、数ヵ月の間をおいて数日間の歯痛が間欠的に生じることがある。たとえば大臼歯であれば、深い修復部に近い側から、歯冠部の歯髄に無菌性の炎症が生じて自発痛が生じる。このとき、根尖部には炎症が波及していないので打診痛、咬合痛は生じず、炎症後、歯冠部の歯髄は壊死する。歯冠部歯髄が壊死した後は無麻酔で髄腔に穿孔ができる。歯冠部歯髄の壊死後、次に根管口から根管歯髄に炎症が波及して2回目の自発痛が生じる。そして、根尖孔まで炎症が進むと打診痛などが生じる。他の根管は根管口で知覚ありというような状況があり、相前後してその根管歯髄にも炎症が波及すると3回目の自発痛が生じるというように、慢性的に歯冠部、根管部の歯髄で部分的炎症が移動しながら歯髄炎が進行する。最初の痛み発生から数回の痛み時期を経過して歯髄全体が壊死に至る。以上のような推定に基づいた仮説病名である。

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