【感染制御学ノート】vol.129 新型コロナウイルス(続報26):DHstyle 2022年9月号

vol.129 新型コロナウイルス(続報26)

佐藤法仁 Norito SATOH
岡山大学 副理事(研究・産学共創担当)・URA
立命館大学 総合科学技術研究機構 教授
内閣府 上席科学技術政策フェロー

図❶ 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の形態モデルと電子顕微鏡で見たウイルス画像(青色で示しているもの)。形態モデルと電子顕微鏡写真ではウイルスに色がついているが、実際のウイルスにこのような色がついているわけではない(参考文献1,2)より転載)

DATA

分類:ウイルス
形態:球状
感染経路:飛沫感染、接触感染、エアロゾル感染
ワクチン:実用段階

Point

  • 2022年8月3日現在、わが国では「第7波」が到来し、感染が拡大している。
  • 岡山大学の武田/モデルナ社製新型コロナウイルスワクチン追加接種(3回目接種)後副反応調査では、接種後の副反応については2回目接種後の副反応と比較し、局所反応・全身反応とも副反応出現割合は減少した。
  • また、6割程度の人は主観で2回目接種と比較して副反応全般は軽かったと答えた。
  • 同大学が微量の血液を利用して抗体価を測定した結果、ワクチンへの免疫反応が極めて弱い方が高齢者施設入所者のうちおよそ1割に及ぶことがわかった。
  • ワクチンへの免疫反応が極めて弱い方がおよそ1割いる報告は、ワクチン接種全体や高齢者接種には意味がないことを示すわけではない。

おことわり

 本号では、現在流行している「新型コロナウイルス(図1)」について取り上げます。
執筆時点(2022年8月3日)で判明している点を記載していますが、今後の研究および情勢などで執筆内容との齟齬、あるいは新たな点が明確となる可能性がおおいにあります。
その点を考慮して、本号をお読みください。

はじめに

 本シリーズでは、2020年4月号から新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)と、それが引き起こす新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大に対応し、さまざまな情報をお届けしてきました。2022年8月3日現在、わが国では「第7波」ともいえる波が来ており、これまでにはない感染拡大をみせています。みなさんは、周囲に感染者が出たり、自身が感染したりするなど、これまで以上に新型コロナウイルス感染症がとても身近になっているかもしれません。他方で「コロナ慣れ」という点もあり、新型コロナウイルス感染症を軽くみてしまう風潮も少なからずあるかもしれません。

 これまでも、いろいろな報告や事例を紹介してきましたが、今回は、筆者の所属機関の1つである岡山大学で実施した研究調査を紹介します。

武田/モデルナ社製新型コロナウイルスワクチン追加接種(3回目接種)後副反応調査

 岡山大学の疫学・衛生学分野の頼藤貴志教授らは、大学拠点ワクチン接種において、武田/モデルナ社製新型コロナウイルスワクチンの3回目接種後の副反応の頻度を評価する調査を実施しました。調査回答期間は、2022年3月16日~7月18日の間です。対象者は、岡山大学教職員および学生の合計1,733人(男性49.7%、女性50.1%、その他0.2%)が調査に回答しました。

 接種後の副反応については、2回目接種後の副反応調査と比較して、局所反応・全身反応ともに副反応出現割合は減少していました。たとえば、2回目接種後は37.5℃以上の発熱の副反応は88.0%でしたが、今回の3回目接種後は67.5%でした。3回目接種後の副反応は接種翌日まで続いた割合が最も高く、接種3日目以降まで持続する割合は低くなっていました(表1~3)3)

 また、回答者の主観で3回目接種後の各副反応の強さを2回目接種後と比較して回答してもらった結果、局所反応・全身反応ともに「軽かった」という回答が、「重かった」という回答よりも多くみられました。さらに副反応全般では、6割程度の人は2回目接種と比較して「軽かった」と回答しました(図2)3)

 3回目接種を受けることにした理由については、「自分の感染を防ぐため」、「自分が感染した際の重症化を防ぐため」、「家族や友人など身近な人達へ感染を広げないため」、「大学で接種できるから」と回答した人が多かったです(図3)3)。自身や周囲の感染を気にかけての3回目接種という思いが高い結果でした。

 なお、今回の調査において「ワクチン接種を強要されたことがありますか?」という質問に対し、回答者の92.5%が「ない」と回答しましたが、2.1%は「ある」、5.4%は「どちらとも言えない」と回答しました。ワクチン接種は1、2回目も含め、すべて義務による接種ではなく、任意接種です。接種の強要や接種しないことへの不合理な扱いなどはやめましょう。

 武田/モデルナ社製新型コロナウイルスワクチン追加接種(3回目接種)後の副反応出現の割合(参考文献3)より引用改変)

 

 3回目接種後の最高体温(参考文献3)より引用改変)

 

 新型コロナウイルス感染症既往歴がある場合の3回目接種後の
発熱出現割合(参考文献3)より引用改変)

 

 3回目接種後の各副反応の強さ(2回目接種後と比較:主観)(参考文献3)より引用改変)

 

 3回目ワクチン接種を受けることを決めた理由について(複数回答)(参考文献3)より引用改変)

一部の高齢者施設入所者におけるワクチン接種後の免疫反応の弱さ

 現在、わが国では第7波の感染が拡大していますが、重症化は防げている点もあります。他方で、高齢者施設などでは、ワクチン接種後にもかかわらずクラスターが発生し、中等症や重症に進行する事例があり、対策が必要です。岡山大学研究推進機構医療系本部の中山雅敬教授らは、医療従事者や高齢者施設利用者およそ1,900人の抗体価を測定し、3回目接種の効果を検討しました。抗体価測定には、微量の指先全血より抗体価を測定できるキットを利用し、接種後2ヵ月以内の抗体価を測定しました。

 その結果、70歳以上の高齢者のなかには、3回目の追加ワクチン接種後にもかかわらず免疫反応a)が極めて弱く、中和抗体の産生がまったく、あるいはほとんど誘導されない方が1割程度いることがあきらかになりました4)

 ワクチン接種により100%の効果を得られないことは、これまでの報告でも示されてきました5)ただ今回の調査は、重症化等のリスクがある高齢者施設入所者において、1割程度はワクチンの効果が十分ではないことがあきらかとなり、高齢者の多いわが国において、ワクチン接種の進め方や重症化対応などの点において、重要な示唆を与えている報告といえるかもしれません。ワクチンの恩恵を受けたい方々へ、きちんと恩恵を届ける施策が必要といえます。

おわりに

 今回は新型コロナウイルス感染症について、研究調査報告の一例として、「武田/モデルナ社製新型コロナウイルスワクチン追加接種(3回目接種)後副反応調査」と「高齢者施設入所者のおよそ1割は3回目の追加ワクチン接種にもかかわらず免疫反応が極めて弱い」という2つを紹介しました。

 前者の報告は、今後の追加ワクチン接種の参考になればと思います。後者の報告は高齢者の医療対応などの際に有効な情報の1つですが、本報告の捉え方として「1割は3回目の追加ワクチン接種にもかかわらず免疫反応が極めて弱い」という面だけを切り取り、「ワクチン接種は意味がない」とワクチン全体の効果を否定することや、「高齢者は打たれ損」と年齢層を一括りにして結論づけることは妥当とはいえないでしょう。

 今後もさまざまな研究報告を紹介し、自身と家族、患者らの健康の安全を守っていければと思います。本稿がその一助となれば幸いです。

参考文献

1)Centers for Disease Control and Prevention(CDC): Public Health Image Library, ID#23312,2020.
2)CDC: Public Health Image Library, ID#23354,2020.
3)岡山大学大学院医歯薬学総合研究科疫学・衛生学分野:武田/モデルナ社製新型コロナウイルスワクチン追加接種(3回目接種)後副反応調査(最終報告).国立大学法人岡山大学,2022.https://www.unit-gp.jp/eisei/wp/?p=4923
4)Hagiya H., et al.: Poor vaccine responsivenesstowards third-dose mRNA vaccine of COVID-19 in Japanese older people. J. Infect. 11 July 2022. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0163445322004133?via=ihub
5)厚生労働省:新型コロナワクチンQ&A.日本で接種が進められている新型コロナワクチンにはどのような効果(発症予防、持続期間等)がありますか.厚生労働省,2022.https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0011.html

(参考文献のURLは2022年8月3日最終アクセス)

言葉の窓

a)免疫反応とは、免疫応答とも呼ばれ、体内にウイルスや細菌などが侵入した際に排除するシステムのことです。

 

https://www.dental-diamond.co.jp/item/1087