【感染制御学ノート】vol.131 新型コロナウイルス(続報28):DHstyle 2022年11月号

vol.131 新型コロナウイルス(続報28)

佐藤法仁 Norito SATOH
岡山大学 副理事(研究・産学共創担当)・URA
立命館大学 総合科学技術研究機構 教授
内閣府 上席科学技術政策フェロー

図❶ 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の形態モデルと電子顕微鏡で見たウイルス画像(青色で示しているもの)。形態モデルと電子顕微鏡写真ではウイルスに色がついているが、実際のウイルスにこのような色がついているわけではない(参考文献1,2)より転載)

DATA

分類:ウイルス
形態:球状
感染経路:飛沫感染、接触感染、エアロゾル感染
ワクチン:実用段階

Point

  • オミクロン株(BA.1)対応のワクチン接種が、2022年9月20日~2023年3月31日まで実施されている。
  • 12歳以上が接種できるファイザー社製ワクチンと、18歳以上が接種できるモデルナ社製ワクチンがある。
  • 妊娠中、授乳中、新型コロナウイルス感染者(完治した人)でも接種できる。
  • 従来の新型コロナウイルスワクチンと同様に、注射した部分の痛み、頭痛、疲労、発熱などの副反応がある。
  • インフルエンザワクチンと同時接種できるが、それ以外のワクチンについては2週間以上の感覚をあける必要がある。
  • 接種は無料で、義務ではなく任意である。
おことわり

 本号では、現在流行している「新型コロナウイルス(図1)」について取り上げます。執筆時点(2022年10月4日)で判明している点を記載していますが、今後の研究および情勢などで執筆内容との齟齬、あるいは新たな点が明確となる可能性がおおいにあります。その点を考慮して、本号をお読みください。

はじめに

 本シリーズでは、2020年の4月号から新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)と、それが引き起こす新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大に対応し、さまざまな情報をお届けしてきました。2022年10月4日現在、わが国ではこれまでに最も多い感染者数を出した「第7波」が落ち着きはじめており、みなさんの周囲でも日常生活が通常どおりになってきている場合があるかと思います。この第7波は変異株であるオミクロン株が主となり、感染拡大が起こりました。そのため、オミクロン株(BA.1)対応ワクチンの接種が始まりました。本号ではオミクロン株対応ワクチンについて、わかりやすくQ&Aで紹介します。

オミクロン株(BA.1)対応ワクチンについてのQ&A

Q1:どのようなものか?
A1:mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンであり、新型コロナウイルスが発生したときの株(従来株)と、オミクロン株(変異株)の2つに対して効果を有します。

Q2:どこのメーカーのワクチンか?
A2:わが国では2022年9月12日にファイザー社とモデルナ社のオミクロン株対応ワクチンが薬事承認され、9月20日より、予防接種法に基づいて接種できるようになりました3)

Q3:接種対象者は?
A3:次の項目をすべて満たす人が対象です。①12歳以上の人、②追加接種(3回目または4回目)の実施の有無にかかわらず、日本国内で少なくとも初回接種(1回目・2回目)が完了している人、またはそれに相当する接種a)が完了している人、③前回の接種から一定期間が経過した人b,4)

Q4:メーカーによって接種年齢は違うのか?
A4:ファイザー社製ワクチンは12歳以上、モデルナ社製ワクチンは18歳以上の人が接種対象となっています。接種する際は年齢と対象ワクチンに注意してください5)

Q5:オミクロン株対応ワクチンはどのような効果があるのか?
A5:ファイザー社製ワクチンは、従来株とオミクロン株BA.1の2価ワクチンです。海外で実施された臨床試験では、従来の新型コロナウイルスワクチンを3回接種した人を対象に、オミクロン株対応ワクチンを4回目として接種。その1ヵ月後にオミクロン株BA.1に対する中和抗体と中和抗体応答率を評価しました。その結果、従来の新型コロナウイルスワクチンの追加接種に比べて、それぞれ優越性と非劣性が示されました。
 モデルナ社製ワクチンも従来株とオミクロン株BA.1の2価ワクチンです。海外で実施された臨床試験では、従来の新型コロナウイルスワクチンを3回接種した人を対象に、オミクロン株対応ワクチンを4回目として接種。その28日後にオミクロン株BA.1に対する中和抗体と中和抗体応答率を評価しました。その結果、従来の新型コロナウイルスワクチンの追加接種に比べて、それぞれ優越性と非劣性が示されました。これらのことから、オミクロン株対応ワクチンは、オミクロン株に対する感染・発症予防効果が期待されます5)

Q6:オミクロン株対応ワクチンの安全性は?
A6:ファイザー社製、モデルナ社製ともに、安全性に関しては従来の新型コロナウイルスワクチンによる追加接種と比較して、明確な優位差はないと報告されています6,7)。現時点で重大な懸念は認められない点から、薬事承認審査で確認され、安全性があるとされています。

Q7:追加接種をオミクロン株対応ワクチンではなく、従来の新型コロナウイルスワクチンにすることはできるのか?
A7:現時点では、3回目接種以降はオミクロン株対応ワクチンを1回接種することになっています。ただし、接種場において従来の新型コロナウイルスワクチンしか入手できない場合は、従来の新型コロナウイルスワクチンを接種してもよいことになっています。さらに、オミクロン株対応ワクチンの接種年齢は、前述したように12歳以上(モデルナ社製は18歳以上)となっています。11歳以下の人や従来の新型コロナウイルスワクチンの接種回数が2回よりも少ない人は、従来の新型コロナウイルスワクチンの接種となり、オミクロン株対応ワクチン接種の対象外となっています5)

Q8:妊娠中、授乳中でも接種できるのか?
A8:接種できます4)

Q9:これまでに新型コロナウイルスに感染したことがあるが、オミクロン株対応ワクチンを接種する意味はあるのか?
A9:新型コロナウイルス感染後のワクチン接種は、その後の感染に対する防御をさらに高めるとされる報告もあり8)、今回の接種を勧める点にもなっています5)

Q10:接種が受けられる期間は?
A10:今回のオミクロン株対応ワクチンの接種期間は、2022年9月20日~2023年3月31日までとなっています4)

Q11:どこで接種できるのか?
A11:原則として、住民票所在地の市町村(住所地)の医療機関や接種会場で接種します4)。なお、従来の新型コロナウイルスワクチンと同様に接種券が必要ですc)

Q12:接種費用は必要か?
A12:従来の新型コロナウイルスワクチンと同様に、今回も全額公費でまかなわれるため、無料で接種できます4)

Q13:副反応はどのようなものがあるのか?
A13:注射した部分の痛み、頭痛、疲労、発熱など、従来の新型コロナウイルスワクチンと同様の副反応が確認されています。現時点でファイザー社製、モデルナ社製ともに重大な懸念となる事例は認められていません。なお、オミクロン株対応ワクチンは、新しい種類のワクチンのため、これまでにあきらかになっていない症状が出る可能性があります。接種後に気になる症状がみられた場合、かかりつけ医などに相談しましょう5)

Q14:インフルエンザワクチンなどの違うワクチンとの接種で気をつける点は?
A14:従来の新型コロナウイルスワクチンと同様に、オミクロン株対応ワクチンは、インフルエンザワクチンと同時接種できます。ただし、インフルエンザワクチン以外は2週間以上の間隔を空ける必要があり、同時接種できません。接種予約や接種時に確認をするようにしましょう5)

おわりに

 今回は、オミクロン株対応ワクチンについて、簡便にQ&Aで紹介しました。従来の新型コロナウイルスワクチンと同様に接種は強制ではありません。また、第7波で多くの感染者が出たことから身近となり「コロナ慣れ」の風潮からワクチン接種のみならず、感染対策が疎かになることもあるかと思います。次の波が来ないためにも、引き続き、個々人の感染対策をしっかりと行うことが重要だと思います。本稿のQ&Aがオミクロン株対応ワクチンの接種判断の参考になれば幸いです。

参考文献


1)Centers for Disease Control and Prevention(CDC):Public Health Image Library, ID#23312, 2020.
2)CDC:Public Health Image Library, ID#23354, 2020.
3)厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課:オミクロン株対応ワクチンの効能・効果、用法・用量の一部変更承認について.厚生労働省,2022.https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_27929.html
4)厚生労働省:令和4年秋開始接種(オミクロン株対応2価ワクチンの接種)についてのお知らせ.厚生労働省,2022.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_autumn2022.html
5)厚生労働省:新型コロナワクチンQ&A.厚生労働省,2022.https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/
6)独立行政法人医薬品医療機器総合機構:特例承認に係る報告書(ファイザー社のオミクロン株対応2価ワクチン).独立行政法人医薬品医療機器総合機構,2022.https://www.pmda.go.jp/drugs/2022/P20220912001/672212000_30400AMX00016_A100_1.pdf
7)独立行政法人医薬品医療機器総合機構:特例承認に係る報告書(モデルナ社のオミクロン株対応2価ワクチン).独立行政法人医薬品医療機器総合機構,2022.https://www.pmda.go.jp/drugs/2022/P20220912003/790314000_30300AMX00461_A100_1.pdf
8)CDC:Interim Clinical Considerations for Use of mRNA COVID-19 Vaccines Currently Authorized in the United States. U.S. Department of Health & Human Services, 2022. https://www.cdc.gov/vaccines/covid-19/clinical-considerations/covid-19-vaccines-us.html?CDC_AA_refVal=https%3A%2F%2Fwww.cdc.gov%2Fvaccines%2Fcovid-19%2Finfo-byproduct%2Fclinical-considerations.html

(参考文献のURLは2022年10月4日最終アクセス)

 

 

 

言葉の窓

a)相当する接種とは、①海外在留邦人等向け新型コロナウイルスワクチン接種事業で初回接種を完了した人、②在日米軍従業員接種で初回接種を完了した人、③製薬メーカーの治験等で初回接種を完了した人、④海外で初回接種を完了した人で、日本で該当する回の接種について薬事承認されているワクチンを接種している場合となります4)
b)ヤンセンファーマ社のワクチンにおける初回接種の回数は1回です。海外で1回接種が完了している場合、日本では2回目接種が完了しているものとみなし、海外で2回接種が完了している場合、日本では3回目接種が完了しているものとみなします4)
c)オミクロン株対応ワクチンの接種対象者であれば、未使用の新型コロナウイルスワクチン3・4回目接種券を用いて、オミクロン株対応ワクチンを接種できます4)


https://www.dental-diamond.co.jp/item/1095