- 2年前に母が他界しました。遺言書はありません。父は母より前に他界していますので、母の相続人は兄と私と弟です。この3人で150㎡の土地とその上に建てた母の自宅を相続することになりますが、まだ遺産分割協議がまとまっていません。近ごろ不動産の相続登記に関して法改正があったそうですが、何かすべきことはありますか。 埼玉県・U歯科医院
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相続登記がなされないことなどにより、不動産登記簿から所有者がただちに判明しない土地等(所有者不明土地)が増加しています。所有者不明土地は、公共事業、復旧・復興事業および民間取引等の阻害要因となり、また管理不全となって隣接する土地への悪影響が発生するなど、さまざまな問題を生じさせます。
そこで、令和3年4月、所有者不明土地の発生の予防と利用の円滑化を目的とし、関連法令が改正されました。相続登記に関連する改正内容としては、「相続登記の申告の義務化」(令和6年4月1日施行)、「相続人申告登記」(同日施行)、「所有不動産記録証明制度」(令和8年4月までに施行)です。また、遺産分割に関して新たなルールが導入されました(令和5年4月1日施行)。
まず「相続登記の申告の義務化」ですが、相続によって不動産の所有権を取得した者は、そのことを知った日から3年以内の相続登記の申請義務が課せられることになりました。遺産分割協議が成立した場合には、成立日から3年以内の登記申請が義務となります。正当な理由がないにもかかわらず、これらの義務に違反した場合、10万円以下の過料の制裁対象となります。
ご質問のケースでは、先生は、お母様の他界を知ると同時に自身が不動産を相続したことを知ったと思われますので、そのことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。この期間の経過前に遺産分割協議が成立し、その結果、先生が不動産の全部または一部を相続した場合、遺産分割協議成立日から3年以内の登記申請が必要です。ところで、相続が開始し、相続人の間で遺産分割協議が成立するまでの間は、すべての相続人が法定相続分の割合で不動産を共有した状態になります(ご質問のケースの法定相続分は3分の1ずつです)。この共有状態を反映した相続登記の申請も可能ですが、そのためにはすべての相続人を把握するための戸籍謄本等の資料を収集する必要があります。この収集は相当の労力と費用が必要です。そのため、新たに「相続人申告登記」が設けられました。この制度は、自身が相続人であることがわかる戸籍謄本等のみを提出して利用することが可能であり、この申告によって相続登記の申請義務を履行したことになります。
「所有不動産記録証明制度」は、被相続人(ご質問ではお母様)が登記簿上の所有者として記録されている不動産を一覧的にリスト化し、証明する制度です。
遺産分割に関する新たなルールについてですが、相続が発生してから遺産分割がなされないまま長期間放置されると、相続が繰り返されて多数の相続人による遺産共有状態となる結果、遺産の管理・処分が困難になります。そのため、このような事態の解消を促進するルールが新設されました。具体的には、被相続人の死亡から10年が経過した後にする遺産分割は、原則として、具体的相続分を考慮せず、法定相続分または指定相続分によって画一的に行うこととされました。
つまり、遺産分割においては、たとえば特定の相続人が被相続人を生前に療養看護した、被相続人から贈与を受けていたなどの個別の事情を考慮し、法定相続分とは異なる具体的相続分が決定されることがあります。今回の新ルールの導入により、被相続人の死亡から10年経過後は、このような個別の事情は原則として考慮されず、法定相続分または遺言書で指定された指定相続分によって、画一的に相続分が決められることになります。井上雅弘
●銀座誠和法律事務所
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学術・経営・税務・法律など歯科医院での治療・経営に役立つQ&Aをご紹介いたします。今回は、月刊 デンタルダイヤモンド 2024年7月号より「法改正された遺産分割の新ルール」についてです。