よくある歯科臨床の「困った」に
「栄養指導」を次の一手に!!
『歯科でできる実践栄養指導』
月刊DHstyleの人気連載が待望の書籍化。話題が話題を呼び重版されている。
本書はタイトルこそ「栄養指導」とあるが、内容は分子栄養学やオーソモレキュラーと呼ば
れる理論に基づく「栄養療法」がベースとなっている。分子栄養学は、既存の栄養学とは若干
趣を異にし、生理学や生化学の理論を臨床応用する学問体系である。それゆえ、タンパク質・
脂質・糖質・ビタミン・ミネラルの5大栄養素の働きや、それらによってもたらされるエネル
ギー産生などに焦点を当てている。
一見、歯科臨床とは無関係と思われるかもしれないが、実は、栄養の適正化により多彩な臨
床効果が期待できる。すなわち、口内炎や知覚過敏など、日常臨床でよくある不快症状の発現
や治癒に深くかかわっている。とくに骨代謝はカルシウムばかり注目されるが、実はベースと
なるのはタンパク質であり、それを組み立てるためには適切な量の鉄とビタミンCが必須であ
ることはもっと周知されるべきであろう。また、臨床でしばしば問題になるTCH(上下歯列接
触癖)は、就寝中の低血糖に伴うアドレナリン分泌による無意識の緊張によってもたらされる
可能性があることにも本書で触れられている。これは、マウスピースや自己暗示療法・ボトックスくらいしか対処法がなかったTCH対策に新たな路を拓くものである。
著者の山本典子氏は、歯科衛生士としての実績もさることながら、早くから日本抗加齢医学
会認定指導士を取得するなど、この分野の先駆者である。また、監修の山本義徳氏は著名なボ
ディビルダーで、著者の実兄である。落ち着いた物腰と生化学的理論に裏づけられたトレーニ
ングに定評があり、YouTubeチャンネル登録者数は64万人にものぼる。実は筆者も、5年前
に氏のトレーナーコースを受講した縁がある。
現代食は加工の過程でビタミンやミネラルが消失、添加物や炭水化物だけが過剰な歪な食材
が一般的になってしまった。その結果、現代は何も考えずに食材を選ぶと、あきらかな低栄養
となる。それによる不定愁訴を持った患者さんが普通に歯科を受診している現実を、われわれ
はもっと認識する必要がある。
本書は栄養素の各論についても詳しいが、臨床でよく遭遇するがつい軽く流してしまいがち
な「困った」に対し、次の一手を提供する会心の書でもある。また、著者の経験と人柄による
読みやすい文章も特筆すべき点である。
(文・吉田 格/東京都・吉田歯科診療室デンタルメンテナンスクリニック)
[デンタルダイヤモンド 2023年6月号掲載予定]
[監修] 山本義徳 ボディビルダー・トレーニング指導者
[著] 山本典子 歯科衛生士
AB判・128頁 定価(本体4,500円+税)
小社より好評発売中!
過去の書評一覧はこちら
歯科医師向け月刊誌『デンタルダイヤモンド』のTOOTH STATION掲載の”書評”をご紹介いたします。今回は、『歯科でできる実践栄養指導』の書評を、吉田 格 先生(東京都・吉田歯科診療室デンタルメンテナンスクリニック)に執筆いただきました。
是非ご一読ください。