刊行にあたって:咬耗と人類生物学的現象 人類の誕生から探る歯科治療|本のエッセンス

咬耗と人類生物学的現象 人類の誕生から探る歯科治療

本のエッセンスは、書籍の「はじめに」や「刊行にあたって」に詰まっています。
この連載では、編集委員や著者が伝えたいことを端的にお届けするべく、おすすめ本の「はじめに」や「刊行にあたって」、「もくじ」をご紹介します。
今回は、咬耗と人類生物学的現象 人類の誕生から探る歯科治療です。

ゼネラルデンタルカタログ

刊行にあたって

 本書は、できれば最初から順を追って読んでいただきたい。いきなり虫の写真が出てきて戸惑うかもしれないが、生物にとって当たり前のシンメトリーを語るのに必要な第一歩で、わが家のペット「ポチ」まで動員して書かせてもらった。
 シンメトリーについては、1991年(平成3年)の国際マイオドンティクス学会アジア会の20周年記念講演会で発表するためにスライドを整理していたなかで、偶然目についたものである。詳しくは、本書01-7「Tさんの顔」を読んでいただきたい。その後も何度かシンメトリーについて話をすることがあったが、「嚙み合わせを変えれば顔は変わるでしょ! だから何?」と、反応はあまりよくなかった。臨床の数が増えるに従って顔の変化の症例数も同様に増えていったが、シンメトリーに関しては反応があまりなかった。
 本書のメインテーマはシンメトリーである。多くの場合、歯列の崩壊はシンメトリーを崩す。歯列の崩壊というと何か大きなことが起こったように聞こえるが、普段から何となく歯列を見ている私たち歯科医師には、壊れているか否か、わからないのである。その目に見えない崩壊を見えるようにしてくれるのが、HIP-Plane である。
 大学を卒業した年に、私は恩師である三浦 登先生より「患者さんの幸せのためにこの書を謹呈します」と一筆したためられた『オーラル・ダイナミックス』という本をいただいた。このバックグラウンドにあるのが、HIP-Planeと同様に人類学的に正常とされている鉗子状の咬耗咬合である。この本がなければ、私の臨床はまったく違ったものとなって本書を書くことができなかった。また、たった2回しかお会いしたことがないが、元 日本人類学会会長で日本大学名誉教授の金澤英作先生との出会いがなければ、やはり本書は世に送り出せなかった。
 本書には、いままでわれわれ歯科医師が日常のなかで当たり前と思っていた事柄と、まったく違うことが記されている。しかし、これらのことは実際に臨床を行ってみられた事象で、想像でも理屈でもなく、事実である。「そういえばそうだよな~」という、当たり前のことがである。
 生物としてのヒトの口は本来どうあるべきかを問うたもので、歯1本のあり方については記していない。もちろん失敗例もある。
 わかりやすく書こうと思ったが、かえってわかりにくくなってしまったところがあるかもしれない。それでも「なるほど!」と思っていただけると幸いである。

2024年明日で3月 編集者にせっつかされて
財部 洋

CONTENTS


咬耗と人類生物学的現象 人類の誕生から探る歯科治療 もくじ

監修者略歴

財部 洋(たからべ ひろし)

日本歯科大学卒業
歯学博士
国際マイオドンティクス学会(I.A.M.)副会長
医療法人社団たからべ会 理事長

【おもな著書】
『歯科医のための治療説明ハンドブック』(デンタルダイヤモンド社,1996)・編著
『歯科医のための続・治療説明ハンドブック』(デンタルダイヤモンド社,1997)・編著
『Dental Diamond 増刊号 治療後 患者からクレームが出たとき 100問100答』(デンタルダイヤモンド社,
1998)・編著
『Dental Diamond 別冊 医事紛争はなぜ起きるのか』(デンタルダイヤモンド社,1999)・共著
『Dental Diamond 増刊号 歯科診療における出血─その原因、止血・対処法』(デンタルダイヤモンド社,
2000)・編著
『臨床のレベルアップポイントまずは60』(デンタルダイヤモンド社,2000)・編著
『Dental Diamond 別冊 スタッフ教育 あなたならどうする?』(デンタルダイヤモンド社,2000)・共著

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