歯科におけるくすりの使い方:ChapterダイジェストPart2

デンタルダイヤモンド社のベストセラー書籍『歯科におけるくすりの使い方2023-2026』の各扉に掲載されている、Chapterの概要を特別公開!
昨今は、AMR:薬剤耐性が問題なっていますが、これらも含めて幅広く解説されています。「歯科医師のためのくすりの辞書」をぜひお役立てください。
今回の第二弾は、Chapter4~6までの概要を紹介しています。

Chapter4 歯科関連疾患と薬物療法

 本章は、口腔外科医や開業歯科医師が実臨床で扱う疾患や有益な薬剤の情報など重要な内容を網羅しており、本書が版を重ねるにつれ最も充実してきた章であろう。前版『歯科におけるくすりの使い方2019-2022』からのおもな変革は、歯科疾患各論の分類をわかりやすくまとめたこと、「骨炎・骨髄炎」、「顎関節疾患」、「末梢神経障害」、「口腔潜在的悪性疾患」、「人工透析患者」、「周術期等口腔機能管理(Ⅲ)の際に役に立つ口腔粘膜炎を起こしやすい薬物と対応」などの内容を新設したことである。本章で実臨床に役に立つ最新の情報を共有いただきたい。
1.骨炎と骨髄炎
 「顎骨炎、骨髄炎 総論」を飯田征二先生にわかりやすく解説いただいた。社会問題化しているMRONJに加えて、とくに難治性のび慢性硬化性骨髄炎(DSO)や放射線性顎骨壊死の新しい薬物療法についても触れられている。
2.顎関節症と薬物療法
 「顎関節疾患 総論」として顎関節の構造、顎関節疾患の病態と分類、診断について概説した。「顎関節症の治療」では、薬物療法を含め、開業歯科医師が実践できる治療法がわかりやすく解説されている。
3.末梢神経障害への薬物療法
 前版まではそれほど詳しい記載がなかった末梢神経障害について、本書では病態、分類、診断、薬物療法などについて最新の情報を含め充実した内容となっている。
4.口腔潜在的悪性疾患と薬物療法
 従来の前がん病変、前がん状態の分類に替わって、新しく「口腔潜在的悪性疾患」という概念が提唱された。
5.口腔粘膜疾患と薬物療法
 近年増加傾向にある口腔内科的疾患に対して、最新の知見を含め更新した。
6.歯周疾患と薬物療法
 新しく承認されたリグロス®による再生治療薬、局所抗菌薬、洗口剤についてアップデートされている。
7.周術期歯科治療時の薬物療法的留意点
 日進月歩している抗がん薬(細胞障害性抗腫瘍薬)や分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬の有害事象、とくに口腔粘膜炎について最新の知見を記載いただいた。

(北川善政)

Chapter5 局所麻酔薬と精神鎮静法で使用される薬物

 本章では、現在、わが国で一般に使用されている歯科用の表面麻酔用および注射用局所麻酔薬製剤と精神鎮静法、とくに静脈内鎮静法で使用される薬物について、それらの製剤・薬物の特徴と使用上の注意点をまとめた。
 局所麻酔薬については、まず表面麻酔薬製剤について解説し、とくに近年アメリカで多くの死亡例が報告されているアミノ安息香酸エチル(ベンゾカイン)の過量投与によるメトヘモグロビン血症について触れた。ついで、注射用製剤であるリドカイン・アドレナリン製剤、プロピトカイン・フェリプレシン製剤およびメピバカイン製剤の特徴とそれらの使い分けのための考え方を整理した。また、一般社団法人日本歯科麻酔学会が発表した「安全な歯科局所麻酔に関するステートメント」と「高血圧患者に対するアドレナリン含有歯科用局所麻酔剤使用に関するステートメント」という2つの局所麻酔に関するステートメントを紹介した。ついで、アドレナリンとフェリプレシンの使用に注意すべき疾患と常用薬物について具体的に解説した。従来、リドカイン・アドレナリン製剤には「原則禁忌」として5つの疾患と1つの既往症が挙げられていたが、厚生労働省医薬・生活衛生局長通知「医療用医薬品の添付文書等の記載要領について」によって「原則禁忌」の項目が廃止され、「特定の背景を有する患者に関する注意」に移行されたため、これらを分けて解説した。加えて、小児や妊婦・授乳婦への局所麻酔薬製剤の使用について解説した。
 静脈内鎮静法で使用される薬物については、現在、広く使用されているミダゾラムとプロポフォールについて解説すると同時に、歯科外来ではあまり使用されていないものの、ICUなどで一般的に使用されており、「局所麻酔下における非挿管での手術及び処置時の鎮静」の適応をもつデクスメデトミジンについても解説した。

(一戸達也)

Chapter6 救急薬と救命処置

 本章では、まず代表的な救急薬の作用と投与法および使用上の注意点などをまとめ、ついで薬物による副作用のなかでもとくに重篤な状態に陥る可能性が高いアナフィラキシーショックについて、その原因薬物、症状および治療について解説した。
 歯科治療が契機となった死亡例の代表的な原因として、急性心不全、脳血管障害、薬物アレルギー、気道閉塞などが挙げられる。いずれも、患者をすみやかに救急医療センターなどの専門施設に送るべきであるが、救急車が到着するまでの間に歯科医師が救急薬の投与を含む適切な対応を取ることができれば、重症化が防止できる可能性が十分にある。
 厚生労働省は2002年に「歯科医師による救急救命処置及びそのための研修の取扱いについて」という通知を発出し、そのなかで以下のように述べている(抜粋)。

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 歯科医師が、以下の(1)から(3)までのような状況において、患者の生命に差し迫った危険が生じていると判断される状況に遭遇する場面が生じ得ることは否定できない。
(1) 歯科医師が病棟において当直している間に、歯科に属する疾患で入院している患者がショック状態となる場合
(2)歯科に係る診療行為中の患者がショック状態となる場合
(3)歯科診療所の待合室における患者がショック状態となる場合
 これらのショック状態が医科の疾患に起因するものと考えられる場合においては、直ちに医師による対応を求める必要があるが、当該歯科医師が、医師が到着するまでの間又は当該患者が救急用自動車で搬出されるまでの間に救急救命処置を行うことは、それが人工呼吸等の一般的な救急救命処置の範囲のものにとどまる限り、医師法に違反するものではない。
 また、こうした場合において、気管内挿管や特定の薬剤投与等の高度な救急救命処置を行うことについては、個別の事情に応じ、緊急避難として認められる場合があり得る。

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 これらの表現の意味についてはさまざまな意見があるものの、歯科医師が自身の担当する患者の全身状態急変時に何も対応ができないのでは国民の信頼を失うと言っても過言ではない。歯科医師は救急処置に関する基本的手技を身につけると同時に、少なくとも自身が保有する救急薬の使用法について十分に理解しておく必要がある。

(一戸達也)

●Part3の記事はこちらから読めます。

●Part1の記事はこちらから読めます。

●刊行にあたっては、下記にて紹介をしております。あわせてご覧ください。

【編集委員】
金子明寛 (池上総合病院 歯科口腔外科)
富野康日己 (医療法人松和会理事長/順天堂大学名誉教授)
小林真之 (日本大学歯学部 薬理学講座)
飯田征二 (岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 顎口腔再建外科学分野)
北川善政 (北海道大学大学院歯学研究院 口腔診断内科学教室)
一戸達也 (東京歯科大学 歯科麻酔学講座)
篠原光代 (順天堂大学大学院医学研究科 歯科口腔外科学)

https://www.dental-diamond.co.jp/item/1093