加齢とともに体は変化していき、さまざまな不調をきたすことも少なくありません。そのなかでも意外と多いのが口腔機能の低下です。
本記事では、顕在化している口腔機能低下症の主な症状や検査および診断方法などについて詳しく解説します。
Contents
口腔機能低下症とは?
口腔機能低下症とは、その名の通り口腔内の機能が低下してくる症状のことです。口腔内の機能とは、主に以下が挙げられます。
- 唾液の分泌
- 口腔内の感覚
- 咀嚼力(食べ物を噛む力)
- 嚥下力(食べ物や飲み物を飲み込む力)
口腔機能が低下する主な要因には加齢が挙げられ、歳を重ねるごとに口腔内でのトラブルや機能障害が発生しやすくなります。では、上記で挙げた口腔機能が低下したとき、どのような症状が現れるのでしょうか。
唾液分泌量の低下:滑舌の低下 口腔内の乾燥 口腔内の衛生状態悪化(むし歯・歯周病)
口腔内の感覚の低下:滑舌の低下 食べこぼし
咀嚼力の低下:咀嚼障害 噛めない食品の増加
嚥下力の低下:摂食嚥下障害 咳・むせの増加
一つひとつの症状は軽度に思われがちですが、たとえば咀嚼力が低下すると食べ物の消化が悪くなり消化器系の負担が増加するほか、嚥下障害によって咳が出やすくなると、肺炎などの合併症を引き起こすリスクもあるのです。
口腔機能低下症とオーラルフレイルの違い
口腔機能低下症と混同されやすいものに、「オーラルフレイル」というものがあります。
2024年4月1日に、日本老年医学会、日本老年歯科医学会、サルコペニア・フレイル学会による『オーラルフレイルに関する3学会合同ステートメント』が公表されました。
このステートメントでは、オーラルフレイルの概念と定義を以下のように示しています。
【オーラルフレイルの概念】
オーラルフレイルは,口の機能の健常な状態(いわゆる『健口』)と『口の機能低下』との間にある状態である。
【オーラルフレイルの定義】
オーラルフレイルは,歯の喪失や食べること,話すことに代表されるさまざまな機能の『軽微な衰え』が重複し,口の機能低下の危険性が増加しているが,改善も可能な状態である。
一見するとオーラルフレイル=口腔機能低下症と捉えられがちです。
しかし、口腔機能低下症は診断に基づいた医療保険病名であるのに対し、オーラルフレイルは状態をあらわしていることが決定的な違いとして挙げられます。
口腔機能低下症の診断項目と診断基準について
口腔機能低下症が疑われる場合、どのような項目を診断することで判断できるのでしょうか。医療機関で検査をする際の方法や診断基準についても解説します。
診断項目
口腔機能低下症の診断においては、以下の7項目の検査を行います。
- 口腔衛生状態不良
- 口腔乾燥
- 咬合力低下
- 舌口唇運動機能低下
- 低舌圧
- 咀嚼機能低下
- 嚥下機能低下
上記のうち、3項目以上が該当した場合に口腔機能低下症と診断されます。
診断基準
口腔機能低下症の7つの診断項目は、どのような場合において該当すると判断されるのでしょうか。それぞれの検査方法と診断基準を紹介します。
口腔衛生状態不良
舌苔(舌の表面に付着する白い汚れのようなもの)の付着度合いを目視し、Tongue Coating Index(TCI)とよばれる評価指標をもとに判断します。TCIのスコアが9点以上の場合、口腔衛生状態不良に該当します。
口腔乾燥
口腔水分計とよばれる専用機器で口腔粘膜湿潤度を測定するか、ガーゼを舌の下に置き唾液量を計測します。口腔水分計の測定値が27.0未満、またはガーゼの重量が2g以下の場合に口腔乾燥状態と判断されます。
咬合力低下
感圧フィルムを強く噛み締めたときの咬合力または、残存歯の本数に応じて咬合力を判断します。感圧フィルムの咬合力が200N未満、または残存歯の本数が20本未満の場合に咬合力低下と判断されます。
舌口唇運動機能低下
10秒間にわたって「pa」、「ta」、「ka」の音節を発音させ、その回数に応じて判断します。1秒あたりの発音回数が6回未満の場合、舌口唇運動機能低下と判断されます。
低舌圧
舌圧測定器を用いて舌を強く押し付けた力を測定します。最大舌圧が30kPa未満の場合、低舌圧と判断されます。
咀嚼機能低下
グルコースという成分を含んだグミゼリー2gを咀嚼させ、10mlの水を口に含んだ後、ろ過用のメッシュに吐き出させます。吐出した溶液に含まれるグルコース濃度を測定し、100mg/dl未満の場合は咀嚼機能低下と判断されます。
また、グミゼリーを咀嚼し吐き出させた後、粉砕の程度を評価する方法もあります。
嚥下機能低下
嚥下機能は嚥下スクリーニング検査または自記式質問票によって評価します。
嚥下スクリーニング検査では、質問紙への回答の結果合計点数が3点以上で嚥下機能低下と判断されます。
自記式質問票では、「聖隷式嚥下質問紙」が用いられ、15項目中Aに該当する項目が3つ以上あった場合に嚥下機能低下と判断されます。
2024年6月からの保険改定について
2018年4月に保険導入された口腔機能低下症は、適用範囲が50歳まで引き下げられるなどの変化を経て、広く周知されるようになりました。そして、2024年のいわゆる“トリプル改定”においても、口腔機能低下症の保険算定について、新設された「歯科口腔リハビリテーション料3」が算定可能になりました。それとともに、歯科衛生士が口腔機能管理にかかわる教育・指導を行うことにも加算が設けられました。
口腔機能低下症の検査方法と治療法
自分自身が口腔機能低下症かもしれないと不安に感じている方は、どのような方法で検査を受ければ良いのでしょうか。また、口腔機能低下症と診断された場合の簡単な治療法についても解説します。
検査方法
口腔機能低下症の検査は、歯科医院で受けることができます。具体的な検査方法は上記の「診断基準」でも紹介した通りで、どの歯科医院で検査をしても内容は同じです。
ただし、検査には一定の時間を要するため、かかりつけの歯科医院へ相談のうえ、検査の日程を確認しておきましょう。
治療法
口腔機能低下症が認められた場合、症状に合わせて治療法を選択することになります。
たとえば、日常生活にも影響しやすい咬合力を回復させるためには、ブリッジとよばれる歯の治療をしたり、入れ歯やインプラントなどの治療の提案をしたりすることもあります。
患者様に向けた口腔機能低下症の改善策やトレーニング方法について
口腔機能低下症の症状によっては、ブリッジやインプラントのような歯科治療を行わなくても、患者さん本人が日頃からトレーニングをすることで改善できるものもあります。
たとえば、低舌圧を解消するためには舌の筋力をアップすることが重要であり、このために専用のトレーニング器具も販売されています。
また、舌の筋力アップや唾液の分泌量を増やすためには、口を大きく開けたり閉めたりする体操をすることも有効です。
「あ」「い」「う」と言葉を発しながら意識的に口を大きく動かし、最後に「べー」と舌を出します。これを10回程度繰り返し、毎日の習慣として継続することで口腔機能の改善につなげられます。
デンタルダイヤモンド社は歯科医療従事者のために情報を発信していきます
保険の改定によって口腔機能低下症の対象範囲が拡大されたことで、歯科医師や歯科衛生士の皆様のなかには患者さんからの相談を受ける機会も増えてくると予想されます。
また、それ以外にも歯科治療の最新情報や業界の動向は知識として頭に入れておきたいものです。
デンタルダイヤモンド社は歯科分野の総合出版社であり、歯科治療に役立つあらゆる情報を網羅しています。単行本はもちろんのこと、月刊誌「月刊デンタルダイヤモンド」も出版しているため、ぜひこの機会にご活用ください。
まとめ
口腔機能は加齢とともに徐々に衰えていくことから、自覚症状がない患者さんも少なくありません。
患者さんとのコミュニケーションのなかで、口腔機能低下症が疑われる場合には今回紹介した検査方法や診断基準などを参考にしてみてください。