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刊行にあたって
本書は創刊以来、歯科で使用する薬について患者の益になり、安全で、安心な医療提供を行うために4年ごとに改訂版として発刊してきた。創刊時には歯性感染症における起炎菌、薬剤感受性検査、その後は体内動態、薬剤相互作用、添付文書をどのように臨床に反映させるかなど、改訂ごとに最新の知見とガイドラインをもとに、歯科医師が本書を身近におき、つねに知識の確認ができるように編集してきた。
本書は新たな編集委員構成で、執筆者も一新しているが、先に示した本書の目的は変更されることなく継承されている。
抗菌薬関連では、耐性菌を増加させない適切な抗菌薬療法が継続して求められている。2016年から開始されたAMR(薬剤耐性:Antimicrobial Resistance)対策アクションプランにより、2021年のわが国における抗菌薬使用量は2013年比で31.5%減少し、内服セファロスポリン系薬は46.1%、内服フルオロキノロン系薬は47.5%、内服マクロライド系薬は43.7%減少した一方で、狭域抗菌薬であるペニシリンの割合が増加傾向にあると報告されている(AMR臨床リファレンスセンター:http://amrcrc.ncgm.go.jp/)。歯科においてもペニシリンの使用率が医育機関から拡大していると推察されている。
歯科で使用するペニシリンの添付文書に、「歯科疾患の適応症の記載がない」という問い合わせをもらうことがある。残念ながら歯科で使用されるペニシリン系薬には歯科疾患の適応症はないが、顎関節症に対するロキソプロフェンナトリウム水和物のように支払基金審査情報事例として認められている薬物がいくつかあるので、ここに記載しておく。
◎オーグメンチン®、クラバモックス小児用配合ドライシロップ®:原則として、「クラブラン酸カリウム・アモキシシリン水和物【内服薬】」を「歯周組織炎」、「歯冠周囲炎」、「顎炎」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める(参考文献1)より引用)。
◎ユナシン®錠、ユナシン®細粒小児用:原則として、「スルタミシリントシル酸塩水和物」を「手術創などの二次感染、顎炎、顎骨周囲蜂巣炎」に対し処方した場合、当該使用事例を審査上認める(参考文献2)より引用)。
◎ユナシン®S静注用:原則として、「スルバクタムナトリウム・アンピシリンナトリウム【注射薬】」を「扁桃周囲膿瘍」、「顎骨周囲の蜂巣炎」、「喉頭膿瘍」、「咽頭膿瘍」、「虫垂炎」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める(参考文献3)より引用)。
2019年のセファゾリン注射剤の供給減に伴い、周術期の予防抗菌薬として口腔内切開を伴う場合は、注射剤のクリンダマイシン、スルバクタムナトリウム・アンピシリンナトリウムを選択する旨の通達が発出されている4)。
本書の次期改訂時には公知申請により、歯科における基本抗菌薬であるペニシリン系薬、クリンダマイシンが歯科の適応症を取得し、歯科におけるAMR対策がさらに進んでいることを期待して刊行の言葉とする。
1)社会保険診療報酬支払基金:319 クラブラン酸カリウム・アモキシシリン水和物(歯科薬物療法1)
https://www.ssk.or.jp/shinryohoshu/teikyojirei/yakuzai/no600/jirei319.html
2)社会保険診療報酬支払基金:審査情報提供事例 79 スルタミシリントシル酸塩水和物(感染症1)https://www.ssk.or.jp/shinryohoshu/teikyojirei/yakuzai/index.files/y_jirei_all_teikyo.pdf
3)社会保険診療報酬支払基金:審査情報提供事例 249 スルバクタムナトリウム・アンピシリンナトリウム➂(感染症14) https://www.ssk.or.jp/shinryohoshu/teikyojirei/yakuzai/index.files/y_jirei_all_teikyo.pdf
4)厚生労働省健康局結核感染症課 厚生労働省医政局経済課:【事務連絡】セファゾリンナトリウム注射用「日医工」が安定供給されるまでの対応について https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000498133.pdf
2022年9月
編集委員一同
CONTENTS
金子明寛(かねこ あきひろ)
1955年 東京都生まれ
1981年 松本歯科大学卒業
現在、池上総合病院 歯科口腔外科
富野康日己(とみの やすひこ)
1949年 北海道生まれ
1974年 順天堂大学医学部卒業
現在、(医社)松和会理事長、順天堂大学名誉教授
小林真之(こばやし まさゆき)
1969年 兵庫県生まれ
1993年 大阪大学歯学部卒業
現在、日本大学歯学部教授(薬理学講座)
飯田征二(いいだ せいじ)
1960年 徳島県生まれ
1986年 大阪大学歯学部卒業
現在、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科教授
(顎口腔再建外科学分野)
北川善政(きたがわ よしまさ)
1958年 滋賀県生まれ
1983年 東京医科歯科大学歯学部卒業
現在、北海道大学大学院歯学研究院教授(口腔診断内科学)
一戸達也(いちのへ たつや)
1956年 神奈川県生まれ
1981年 東京歯科大学卒業
現在、東京歯科大学学長
篠原光代(しのはら みつよ)
1961年 福島県生まれ
1986年 日本大学歯学部卒業
現在、順天堂大学大学院医学研究科 歯科口腔外科学
先任准教授
本のエッセンスは、書籍の「はじめに」や「刊行に寄せて」に詰まっています。
この連載では、編集委員や著者が伝えたいことを端的にお届けするべく、おすすめ本の「はじめに」や「刊行に寄せて」、「もくじ」をご紹介します。
今回は、『歯科におけるくすりの使い方2023-2026』です。