待合室の絵本コンシェルジュ:DHstyle 2023年11月号

歯科衛生士向け月刊誌『DHstyle』より、歯科医院の待合室にぴったりの素敵な絵本をご紹介いたします。今回は、『へびのクリクター』です。

ゼネラルデンタルカタログ

『へびのクリクター』

 今月紹介する絵本は、『へびのクリクター』です。ひょっとすると、タイトルを見ただけで「へびの本は、苦手だな」と思う人がいるかもしれません。でも、ちょっと待った! 嫌われキャラでありながら、主役を務める主人公の実力を、あなどってはいけません。

 フランスに住むボド夫人に、爬虫類の研究をしている息子から、誕生日プレゼントが届きました。なんと、へびの赤ちゃんです。ボド夫人は、そのへびを「クリクター」と名付けて、とてもかわいがりました。
 小学校の先生をしている夫人は、教室にクリクターを連れていきました。クリクターは、文字や数字を覚え、生徒たちとも仲よく遊ぶようになりました。ところがある晩、夫人の家に泥棒が入ったのです。猿ぐつわをかまされ、椅子に縛られた夫人の運命やいかに?!
 ハラハラする展開ですが、実はクリクターは、絵本のなかでひと言もしゃべりません。だって、へびですから! それでも読者には、場面ごとのクリクターの気持ちが、手に取るようにわかります。「主役ならではの演技力!」と言いたいところですが、やはり作者ウンゲラーの“絵の力”によるものでしょう。
 赤・緑・黒の3色だけで描かれた絵は、おしゃれで洗練されているだけではなく、表情や目の動きなどが実に細やかに表現されています。そこに言葉はいりません。“目”だけではなく“絵”も口ほどにものを言うようです。
 大人は、愛らしい動物が主人公の絵本を選びがちですが、幼い読者たちは、本書のへびのような嫌われキャラの絵姿にも、面白さを見出します。それは作者が、子どものような素直なまなざしで、対象の本質を捉えて絵を描いているからに違いありません。
 「へびの本は、ちょっと嫌だな」という先入観をきれいさっぱり洗い流してくれる、絵とおはなしの面白さを味わってみてください。「クリクターが、待合室の人気者になる日が必ずやってくる」とお約束します。

おひさま堂 書籍部
大橋悦子

作:トミー・ウンゲラー
訳:中野完二
出版社:文化出版局

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