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『綱渡りの男』
「昔、ふたつのタワーがならんで立っていました」。物語は、まるで昔話のように始まります。でも、語られるのは昔話ではなく、ニューヨークの世界貿易センターにあったツインタワービルで実際に起こったことです。とはいっても、22年前の9月11日に発生したあのテロのお話ではありません。今月は、ツインタワービルが完成する前の、信じがたい出来事を描いた絵本『綱渡りの男』を紹介します。
こんは、あきが生まれる前、おばあちゃんがあきのために作ったぬいぐるみです。あきは、こんに見守られてすくすくと育ちましたが、こんは、徐々に傷みがひどくなり、とうとう腕がほころびてしまいました。
そこで2人は、腕を修理してもらおうと、おばあちゃんの住む砂丘町へ行くことにしましたが……。
この絵本には、注目したい点が3つあります。1つ目は「作者の高い画力」です。狐のぬいぐるみと小さな女の子が、列車で旅をするというシュールなおはなしですが、あどけなく健気な2人の姿を見れば、読者は心から応援したくなります。それは、間違いなく作者の画力のなせる業といえるでしょう。
2つ目は、「温かなストーリー」です。旅の途中、こんの尻尾が列車のドアに挟まれたり、犬にさらわれたりとピンチが続く2人ですが、お互いが相手を大切に思う気持ちを行動で示す場面は、読者の共感を呼びます。とくに、あきの不安に寄り添って、どんなときでも「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と励ますこんの言葉は、何よりも温かく、まるで母親のような愛情と優しさに溢れています。
そして最後に注目したいのは、絵本のなかに潜む「秘密の隠し絵」です。おはなしとは関係のないところに、チャップリンや不思議の国のアリスといった、世界的な有名人が何人も描かれていますので、どうぞ目を凝らして探してみてください。
さて、そんな魅力的な絵本の主人公であるこんは、昔からぬいぐるみが発売されるほどの人気者でした。
そこでご提案です。待合室の本棚に、この絵本とこんのぬいぐるみを一緒に迎えてみませんか? 相乗効果で、待合室の温かな雰囲気作りに一役買うこと請け合いです。
おひさま堂 書籍部
大橋悦子
歯科衛生士向け月刊誌『DHstyle』より、歯科医院の待合室にぴったりの素敵な絵本をご紹介いたします。今回は、『綱渡りの男』です。