- 当院に通っている患者が高齢化しており、将来的にはメインテナンスのための来院が困難になることが予想されます。そこで、訪問診療を始めたいと思います。これから訪問診療を始める歯科医院に必要な器具・機材、治療・処置時の工夫などについて教えてください。
●滋賀県・M歯科クリニック -
本稿では「1.まず始めるにあたって」で必要な器具・機材についてご紹介します。なお、訪問歯科の詳細な準備などについては成書をご覧いただければと思います。訪問診療へのハードルを下げるためには、手に入りやすいもの、または通常の診療室でも使用できるものから揃えるのがポイントかと思います。それでも、メインテナンス、義歯の調整、鉤歯調整を伴わない義歯作製、簡単な充塡などは十分に行えます。
1.まず始めるにあたって
当院で「訪問診療用」として購入したものは、携帯型マイクロモーター(VIVAMATE G5[ナカニシ])、懐中電灯、チャッカマンなどの多目的ライターです(図1)。携帯型マイクロモーターはコントラハンドピースを装着して歯面研磨、ストレートハンドピースを装着し義歯の技工に用います。診療室でもユニットのエンジンの調子が悪いときのバックアップとしても有用です。また、フットペダルを付けておいたほうが使用しやすいです。光源は懐中電灯でも十分ですが、ヘッドライトや開口器にライト機能がついているもの(eBite[ニッシン])であれば通常の診療でも使用できます。
2.実際の治療・処置
1)義歯作製
印象材をジップ付きのビニール袋などに入れ、スパチュラとラバーボウルとともに持参します。訪問先で氷を分けてもらって冷水を作り、印象材の練和を行います。固定液をあらかじめ入れたジップ付きのビニール袋に入れて印象を持ち帰ります。咬合採得は多目的ライターでワックススパチュラを熱し、蠟堤を軟化させるとよいでしょう。義歯の試適、装着、調整時にはアシスタントにビニール袋を持参してもらい、その中で削ると削辺の飛散をある程度は抑えられます。
2)う蝕への対応
機械での切削は困難ですので、エキスカベータで可及的に除去の後、光照射の必要がなく完全防湿ができていなくても充塡が可能なグラスアイオノマーセメント(ケアダイン レストア[ジーシー])を用います。鋭利な残根を覆うのにも有効です。この製品も通常の診療の際、根面う蝕への対応に使用できます。
3)その他の対応
保険証や口腔内の記録はスマートフォンで撮影します。もともと通院中の患者でしたらカルテも作成済みの場合が多いと思いますので、資格などの変更は撮影した写真をもとにカルテを医院に戻って修正します。また、支払いは後日、家族に来院してもらって行います。
通院歴がある患者は過去のパノラマX線写真などの資料も揃っており、リスク部位についても把握できているため対応しやすいことが多いです。可能な治療の範疇を超えると診断した場合は、必要最低限の外来受診を家族に依頼したり、訪問診療を専門で行っている先生に紹介したりして対応しますが、それでも患者からすれば、慣れた歯科医師や歯科衛生士にケアしてもらう安心感はより大きいといえます。●
超高齢社会を迎えた昨今、本稿が「訪問診療の初めの一歩」の後押しになれば幸いです。
髙井靖子
●群馬県・高井歯科クリニック
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