図❹ 可及的無圧概形印象模型(左)とフラビーガムを起立させた精密印象模型(右)。
精密印象にてフラビーガムが起立している
1)林 宏暁,佐藤勝史:上顎フラビーガムを起立させ、義歯吸着へ導いた無歯顎症.デンタルダイヤモンド,43(11):88-95,2018.
林 宏暁
●山形県・佐藤歯科医院 ラ・フランスオフィス
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フラビーガムは総義歯治療の難症例の1つに挙げられます。軽度のフラビーガム症例では、通法の印象法で義歯を製作しても、不都合が生じることは少ないかと思います。
しかし、顎堤に骨の裏打ちのまったくない重度フラビーガム症例に対して通法の印象法を行うと、開口時に上顎総義歯のズレ落ちや、咬合時の義歯の移動による顎堤粘膜の疼痛および潰瘍が発現してくることがあります。この現象が生じるのは、咬合時に義歯床下でフラビーガムが前方に折り畳まれて縮んでいる状態にあり、開口時には、義歯の重みと上口唇の口蓋側への力により義歯が下方に移動し、それによりフラビーガムが伸展するからだと考えられます。また、義歯が側方へ移動した場合に同部が縮んでいると、可動性に富んでいるため動きの抵抗にならないからです。
これを改善する方法として、印象採得の際にフラビーガムを起立させ、可動性を制限することにより、義歯の安定化を図る方法が挙げられます(図1)。
精密印象の方法として、まず印象圧によりフラビーガムが極力変形しないようにするため、上顎の個人トレーのフラビーガム相当部を削合します。このときのポイントとして、フラビーガムの唇側に接触するトレーは削合せずに残し、天井部と口蓋側部分のみをくり抜きます(図2)。こうすることで、フラビーガムを唇側からの印象圧により起立させることができます。
次にフラビーガム部に相当するトレー前方内面にのみ、ヘビーボディタイプのシリコーン印象材を置いて、トレーを口腔内へ軽く上後方へ圧接するように挿入します(図3)。印象材の硬化後は、通法の精密印象を行います。筆者の場合、ヘビーボディタイプの印象材により辺縁形成を行い、顎堤粘膜に入り込んだシリコーン印象材を削除し、最後にインジェクションタイプのシリコーン印象材にて全体を精密印象採得します。
可及的に無圧概形印象で採得した診断用模型と、この方法による精密印象からなる作業用模型を比較すると、フラビーガム部が後方へと立ち上がっているのがあきらかにわかります(図4)。これをもとに製作した上顎義歯は、可及的にフラビーガムの動きを制限しているため、維持・安定度を向上することができます。
図❹ 可及的無圧概形印象模型(左)とフラビーガムを起立させた精密印象模型(右)。
精密印象にてフラビーガムが起立している
1)林 宏暁,佐藤勝史:上顎フラビーガムを起立させ、義歯吸着へ導いた無歯顎症.デンタルダイヤモンド,43(11):88-95,2018.
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