本のエッセンス|刊行にあたって:インプラントの撤去 ~リスク診断から再埋入まで~

本のエッセンスは、書籍の「はじめに」や「刊行に寄せて」に詰まっています。
この連載では、編集委員や著者が伝えたいことを端的にお届けするべく、おすすめ本の「はじめに」や「刊行に寄せて」、「もくじ」をご紹介します。
今回は、『インプラントの撤去 ~リスク診断から再埋入まで~』です。

刊行にあたって

 歯科インプラントは極めて長期間機能する可能性が高い。インプラント治療に携わる歯科医師には、埋入手術や上部構造の設計・製作の能力だけでなく、長期にわたるメインテナンス時に発生するバリアンス(予期せぬ事象)やトラブルに対応できる知識と技術が求められる。メインテナンス時に、インプラント周囲炎が増悪して骨支持の多くを失った場合、あるいは発生頻度は少ないにせよ、インプラント体やアバットメントスクリューの破折が生じた場合、当然ながらインプラント体を撤去して再治療の可能性を考えることになる。
 前述のように歯科インプラントは極めて長期間機能する可能性が高いため、加齢とともにインプラント周囲炎の罹患リスクが高くなることに加え、口腔組織にもさまざまな変化が生じ、残存歯が失われるリスクも高くなる。したがって、時としてインプラント体を別のものに取り替えたい、あるいは埋入部位や方向を修正して上部構造を再設計・製作して咬合関係を再構築したいと考える時期がくる可能性も少なくない。また、長期間の機能下によってアバットメント接合部の破損、インプラント体の破折などでインプラント体の撤去が必要となるトラブルも完全には予防できない。
 一般論として、オッセオインテグレーションが完全に失われていないインプラント体の撤去は容易ではない。「自分が埋入したインプラント体の撤去は考えないことにする」などという楽天的な考え方の臨床医も多いが、インプラントは極めて長期間機能することを考えると、将来的に自分が埋入したインプラント体を撤去する必要に迫られる可能性は決して少なくない。医療として体内に埋め込まれた人工物は、必要があれば撤去(除去)できる手段を用意しておくことは医学的に重要な視点であり、インプラント体の埋入手術を行う医療提供者である歯科医師には、
インプラント体を安全・確実に撤去できることも同時に求められているのではないだろうか。
 そこで本書では、われわれの診療科でこれまでに経験してきたインプラント体の撤去(除去)と再埋入について、正木千尋准教授を中心に医局員全員の協力で症例を整理し、さまざまな角度から論じてみた。われわれの臨床経験から得たインプラント体の撤去と再埋入に関する知見が、少しでも多くの歯科インプラント臨床に携わる臨床医のお役に立つことができれば望外の喜びとするところである。

2023年3月 

九州歯科大学附属病院 口腔インプラント科
細川隆司

 

CONTENTS

監修・編著者プロフィール

細川隆司(ほそかわ りゅうじ)

九州歯科大学
口腔再建リハビリテーション学分野 教授
附属病院口腔インプラント科 科長
1986年 九州歯科大学歯学部卒業
1989年 日本学術振興会特別研究員DC採用
1990年 九州歯科大学大学院歯学研究科修了
1990年 ハーバード大学歯学部博士研究員
1991年 九州歯科大学歯学部助手(歯科補綴学第二講座)
1995年 広島大学歯学部助手(歯科補綴学第一講座)
1999年 広島大学歯学部講師
2003年 九州歯科大学教授(歯科補綴学第二講座)
2004年 九州歯科大学教授(口腔再建リハビリテーション学分野)
    九州歯科大学附属病院口腔インプラントセンター長
2012年 九州歯科大学歯学部長
2016年 九州歯科大学附属病院副病院長
2020年 九州歯科大学副学長
2021年 日本補綴歯科学会 副理事長
2022年 (公社)日本口腔インプラント学会 理事長
現在に至る

正木千尋(まさき ちひろ)

九州歯科大学
口腔再建リハビリテーション学分野 准教授
1999年 広島大学歯学部卒業
2003年 広島大学大学院歯学研究科修了(歯科補綴学第一講座)
2004年 アイオワ大学歯学部客員研究員
2005年 九州歯科大学口腔再建リハビリテーション学分野 助手
2007年 同分野 助教
2012年 同分野 病院講師
2015年 同分野 准教授
現在に至る