歯科におけるくすりの使い方:ChapterダイジェストPart3

デンタルダイヤモンド社のベストセラー書籍『歯科におけるくすりの使い方2023-2026』の各扉に掲載されている、Chapterの概要を特別公開!
昨今は、AMR:薬剤耐性が問題なっていますが、これらも含めて幅広く解説されています。「歯科医師のためのくすりの辞書」をぜひお役立てください。
今回の第三弾は、Chapter7~9までの概要を紹介しています。

Chapter7 医科基本薬と基本知識

 医科診療における薬物療法は、必要不可欠なものになっている。とくに、慢性疾患の患者や高齢者においては、多くの薬物を併せて服用していることも多く「ポリファーマシー(多剤併用による薬物の有害事象)」といわれる状況が増えている。こうした患者の歯科受診も増えていると聞いている。歯科診療時に問題となる点は、①服用中の薬物をこのまま続けながら診療を行うことは可能であろうか、②歯科診療への影響が考えられる場合には、服薬を中断もしくは減量することが可能であろうかということである。
 また、治療後に歯科医師が処方したい薬物が患者に悪影響を及ぼさないか、また医科で処方されている薬物と併用しても問題が起こらないかということも気になることである。とくに、患者の肝機能や腎機能などへの影響も大きな問題である。いずれにしても、診療に当たっては歯科-医科連携による情報の共有がたいへん重要である。
 このような現状を踏まえて医科診療で頻用される代表的薬物を取り上げ、執筆者に「歯科におけるくすりの使い方」を解説していただいた。以下に、それら薬物のおもな適応症などを紹介する。
(1)プレドニゾロン(副腎皮質ステロイド):関節リウマチ、膠原病(結合組織病)、悪性腫瘍(白血病、悪性リンパ腫)、ネフローゼ症候群など
(2)非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs):関節リウマチ、リウマチ熱、変形性関節症、肩関節周囲炎、腰痛症、発熱や疼痛を伴う各種疾患(急性上気道炎、感冒、抜歯後、外傷後、月経困難症、膀胱炎など)、抗血栓作用を期待した脳梗塞や虚血性心疾患など
(3)糖尿病治療薬(インスリン、経口血糖降下薬):1型(インスリン依存性)糖尿病、(2型)インスリン非依存性糖尿病、妊娠糖尿病など
(4)抗凝固薬、抗血小板薬(抗血栓薬):深部静脈血栓症、肺塞栓症、脳梗塞、心房細動、心筋梗塞、狭心症、原発性肺高血圧症、ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群、軽度~中等度のIgA腎症など
(5)降圧薬:本態性高血圧、二次性高血圧(腎性高血圧、内分泌性高血圧など)
(6)パーキンソン病治療薬:パーキンソン病(中年以降に発症する比較的頻度の高い錐体外路系の変性疾患。特徴的4症状:静止時振戦、筋強剛、無動、姿勢反射障害)

(富野康日己、篠原光代)

Chapter8 消毒薬・含嗽剤・口腔保湿剤

 現在、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はオミクロン株へと変異を続け、世の中は不安に包まれている(2021年12月現在)。人類と感染症との戦いは古くからのつねではあるが、現役の歯科医師にとっても初めての経験であり、流行初期のころは歯科診療を今後どのように進めていけばよいのか、皆手探りの状態で戸惑いも多かったと思う。しかしながら今回のパンデミックは、日頃の歯科診療における消毒や滅菌をはじめとする基本的な感染対策の重要性を見直すきっかけとなった。
 先日、米国のノースカロライナ大学などによる研究チームが口腔粘膜や唾液腺の細胞にSARS-CoV-2が感染し、増殖することを報告し、唾液中のウイルスは感染性を有していることを発表した1,2)。したがって、日常生活におけるマスクの着用、飲食時の黙食やシールドの設置など、歯科診療時における飛沫対策の重要性が改めて裏づけられたことになる。この研究結果によって、今後の歯科医療は患者の口腔健康管理と院内感染防止のための感染対策にいっそう目を向けたものとなろう。
 感染対策についてはCDC(米国疾病予防管理センター)の標準予防策(スタンダードプリコーション)は10の具体策を挙げているが、とくに基本的な「手指衛生」「個人防護用具(PPE)の適切な使用」が重視されている。歯科診療は清潔・不潔の領域の境界が曖昧となりやすく、院内感染を防止するには感染対策の根本である標準予防策を徹底して行うことが重要である。今回のコロナ禍における感染対策を、今後の未知の病原体の出現を想定のもとにしっかりと備えておくことが肝要である。
 口腔ケアについては新型コロナの感染リスクや重症化リスクを防ぐためにも重要であるといわれている。また、周術期をはじめとする口腔機能管理は誤嚥性肺炎や手術部位感染(SSI:Surgical Site Infection)などさまざまな感染症の予防に効果があり、現在、各施設において積極的に実施されている。
 本章では感染防止のための口腔ケア、含嗽剤、消毒、標準装備、滅菌などに関する項目をまとめた。ご参照いただきたい。

【参考文献】

1) Huang Ni. Et al.: SARS-CoV-2 infection of the oral cavity and saliva. Nat Med,27(5): 892-903, 2021.
2) 今井健一:口腔は新型コロナウイルスの培養装置?.デンタルダイヤモンド,46(16):95,2021.

(篠原光代)

Chapter9 漢方薬

 歯科医師国家試験においても、歯科医師として必要な、和漢薬(漢方)を服用する高齢者や全身疾患をもつ者などへの対応に関する内容を問う問題が出題されている。これらは、歯科医師が漢方薬を処方する機会が増加していることを裏づけている。『歯科におけるくすりの使い方 2019-2022』では、地方独立行政法人 神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)漢方e-learningについて掲載していたが、現在は一般財団法人 日本漢方医学教育振興財団により運営されている。
 たとえば、歯科で口渇などに処方される五苓散は頭痛、頭重、めまい、口渇、嘔吐、心下痞硬、下痢、尿量減少、振水音、汗をかきやすい、むくみといった症状に使用される。
◎五苓散
 本品7.5g中、下記の割合の混合生薬の乾燥エキス2.0g を含有する。
日局タクシャ………4.0g
日局ブクリョウ……3.0g
日局ソウジュツ……3.0g 
日局ケイヒ…………1.5g
日局チョレイ………3.0g

【効能または効果】
口渇、尿量減少するものの次の諸症: 浮腫、ネフローゼ、二日酔、急性胃腸カタル、下痢、悪心、嘔吐、 めまい、胃内停水、頭痛、尿毒症、暑気あたり、糖尿病。
【用法および用量】 通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前または食間に経口投与する。なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。
※漢方はすべて用法として食前または食間に経口投与のため、服薬性から食後投与に処方する際は、処方箋の摘要欄に服薬性のため食後投与の記載が必要である。

 歯科大学においても漢方教育が必須の時代になった。教育に携わる先生方は一般財団法人 日本漢方医学教育振興財団のHP (https://jkme.or.jp/)を開いて参考にしてほしい。

(金子明寛)

●Part2の記事はこちらから読めます。

●Part1の記事はこちらから読めます。

●刊行にあたっては、下記にて紹介をしております。あわせてご覧ください。

【編集委員】
金子明寛 (池上総合病院 歯科口腔外科)
富野康日己 (医療法人松和会理事長/順天堂大学名誉教授)
小林真之 (日本大学歯学部 薬理学講座)
飯田征二 (岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 顎口腔再建外科学分野)
北川善政 (北海道大学大学院歯学研究院 口腔診断内科学教室)
一戸達也 (東京歯科大学 歯科麻酔学講座)
篠原光代 (順天堂大学大学院医学研究科 歯科口腔外科学)

https://www.dental-diamond.co.jp/item/1093