『チューリップ畑をつまさきで』
銅版画家の山本容子さんをご存じでしょうか? 山本さんは、都会的で洗練された画風と独自の世界観をもつ、著名なアーティストです。
今回はその山本さんが、90年以上前のミュージカル映画の挿入歌、「チューリップ畑をつまさきで」に触発されて作ったという、同名タイトルの絵本を紹介します。
春、そのチューリップ畑は満開に華やぎ、歌いながら散歩をする花もいました。この畑のチューリップたちは、みな歩けるのです。そして夏、花が終わった畑には「次の春には美しい花を咲かせよう」と夢見る、2つの子どもの球根がありました。バナナとカオリです。
ところが、その年の秋のこと、突然ターバンを巻いた謎の鳥・キューコンチョーが現れて、バナナとカオリを頭に乗せると、遠いトルコの地をめざして空高く飛び立ちました。
トルコへの道中、バナナは突風に煽られて海に落ち、南の島へ流されてしまいます。一方カオリは、キューコンチョーに連れていかれたトルコで、チューリップの絵が飾られた宮殿へと導かれます。
アクシデントが2人を分かちましたが、ある偶然が宮殿での再会をもたらします。そして、その宮殿には、不思議な物語が伝わっていて……。と、宮殿を舞台にしたドラマチックな展開が、2人を待ち受けています。
その後、作中の物語で「チューリップを見た人が幸せな気持ちになる理由」が明かされ、これが故郷のチューリップ畑と本書のタイトルに繫がっていきます。一連の伏線回収の面白さに、ご期待ください。
また、銅版画で活き活きと描かれる登場人物や、繊細ななかにどこか力強い作者の手書き文字など、芸術家・山本容子を感じさせる要素もたっぷり詰まっています。
「まるで楽しいオペレッタのよう」と評される本書は、温かな結末と相まって、チューリップだけではなく“絵本も人を幸せな気持ちにしてくれる”作品です。きっと、待合室にも笑顔が溢れますよ。
大橋悦子 Etsuko OHASHI
JPIC 読書アドバイザー
歯科衛生士向け季刊誌『DHstyle』より、歯科医院の待合室にぴったりの素敵な絵本をご紹介いたします。今回は、『チューリップ畑をつまさきで』です。