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Q&A
法律(2019年1月号)
Q抜歯時のクレームへの対応
●ある患者さんの抜歯を行いました。しかしその後、他院で「抜歯せず保存可能だった」と言われたようで、その患者さんからクレームと治療費の返還請求がありました。私は正しい検査と正しい判断に基づいて抜歯しており、患者さんにもその旨説明し、最終的には納得いただきました。再びこのようなことがあった場合、どのように対応すればよいでしょうか。また、正しい判断で抜歯しても大ごとになってしまうことはあるのでしょうか。
── 大阪府・T歯科
A
 まず前段のご質問ですが、医学的に抜歯の適応判断と手技に問題がなく、かつ、事前に説明して患者の同意を得ているのであれば、原則として治療費返還や損害賠償等、いかなる名目の金員支払請求にも応じる必要はありません。再び同じようなことがあったとしても、今回と同様に、丁寧に再説明して患者の納得を目指し、返金等の請求には応じないようにしてください。
 私の経験ですが、紛争化を嫌って「この程度の金員で済むのであれば」との判断で返金請求に応じたり、迷惑料等の名目で金員を支払ってしまった先生のご相談を受けたことがあります。その支払いが終局的な解決を約束するのであればまだしも、そのような文言の記載がある合意書を取り交わすこともなく場当たり的に金員を支払うことは、後日、追加請求を受けた場合、あたかも先生が責任を認めたかのようにみられてしまう危険がありますので控えるべきです。
 後段のご質問についてですが、正しい判断で抜歯しても、保存の可能性の説明や同意の有無で問題となることはあり得ます。
 前者に関しては、治療方法の選択に係る説明義務について有名な判例がありますのでご紹介します(最高裁平成13年11月27日判決)。これは、乳がんの乳房温存療法が医療水準として未確立であった当時、すでに医療水準として確立していた胸筋温存乳房切除術を採用した医師の説明義務違反の有無について争われたものです。裁判所は、温存療法を実施している医療機関も少なくなく、相当数の実施例があって、乳房温存療法を実施した医師の間では積極的な評価もされていること、当該患者の乳がんについては乳房温存療法の適応可能性があったこと、当該患者が乳房温存療法の自己への適応の有無、実施可能性について強い関心を有しており、医師もこれを知っていたことなどを認定したうえ、「医師は、少なくとも当該患者の乳がんについて乳房温存療法の適応可能性のあること及び乳房温存療法を実施している医療機関の名称や所在を当該医師の知る範囲で明確に説明し、当該医師により胸筋温存乳房切除術を受けるか、あるいは乳房温存療法を実施している他の医療機関において同療法を受ける可能性を探るか、そのいずれの道を選ぶかについて熟慮し判断する機会を与えるべき義務があった」と結論付けました。
 もちろん、この判例の事案と抜歯では、生死にかかわる疾患か否か、治療法の選択が患者のアイデンティティに深く関連するか否かという相違はあります。しかし、抜歯せずに保存可能と判断する余地があり、かつ、患者が保存に強い関心を抱いているような場合は、仮に先生が医学的に正しく抜歯適応と判断しても、保存の可能性も説明し、場合によってはセカンドオピニオンを求めることを勧めるなどの対応が求められるかもしれません。
 後者に関してですが、同意していないのに勝手に抜歯されたとの主張はときどき耳にします。患者の同意なしに歯科医師が抜歯することは考え難く、またその後も患者が通院しているケースなどでは間接的に同意の存在が裏付けられるので容易に反論できることが多いのですが、同意書があれば直接的に同意の存在を立証できますので、あらかじめ同意書を取得したほうがよいでしょう。

井上雅弘
銀座誠和法律事務所

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