自院に来てほしくない患者の診療を拒否できるか
●クレームが多かったり、女性スタッフにセクハラをするなど、さまざまな理由で自院に来てほしくない患者がいます。法的に問題なく断る方法はありますか。
── 兵庫県・Hデンタルクリニック
ご承知のとおり、歯科医師の先生方には、歯科医師法19条1項によって、診察治療の求めがあった場合には正当な事由なくこれを拒んではならないとする、いわゆる応召義務(応招義務)が課せられています。
この、診療を拒否できる「正当な事由」については、過去に厚生省が示した行政解釈がいくつかあります(詳しくは『デンタルダイヤモンド』2014年7月号の当コーナーをご覧ください)。
そのなかでは、一般論として「それぞれの具体的な場合において社会通念上健全と認められる道徳的な判断によるべきである」とされており、またいくつか具体例が挙げられていますが、具体例のなかにご質問のケースに類似するものは見当たりません。そのため、ケース・バイ・ケースで判断せざるを得ませんので、以下、私見になりますが検討してみたいと思います。
まず、クレームの多い患者についてですが、クレームが合理的なものである場合にはもちろん、たとえ不合理なものであったとしても、クレームが多いことをもって、ただちに「正当の事由」があるとはいえません。
なぜなら、歯科医師には、歯科診療契約に基づく説明義務・顚末報告義務が課せられています。そうであれば、歯科医師は、これらの義務の履行として、クレームの原因となっている患者の誤解・知識不足を解消すべく説明を尽くすべきであり、単にクレームが多いからといって軽々に診療拒否はできないと考えられるからです。
もっとも、診療契約は法的には準委任契約と解されているところで、準委任契約は委任契約と同じく当事者間の信頼関係を基礎とする契約類型です。実際としても、不可逆的な侵襲行為を伴う歯科治療において、患者との信頼関係の構築は不可欠といえます。
そのため、たとえば歯科医師がいくら簡単な言葉でわかりやすく説明を尽くしても理不尽なクレームを繰り返したり、または謝罪文の交付や土下座による謝罪、慰謝料の支払い請求等、度を超えた要求をする患者に対しては、「正当な事由」が存在するとして、診療を拒否できる場合もあると思います。
次に、女性スタッフにセクハラ(セクシャル・ハラスメント)をする患者についてですが、セクハラにも程度があります。たとえば、女性スタッフの身体に触れる行為は、その態様等により、迷惑防止条例等に違反する犯罪行為となる場合もあります(なお、迷惑防止条例は、北海道では「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」が正式名称ですが、全国にある類似の条例は都道府県ごとに名称が異なるため、一般名称的に迷惑防止条例と呼ばれています)。女性スタッフに犯罪被害に耐えることを強いてまで診療を続けなければならないとは考え難いので、このような場合には「正当な事由」が認められると思われます。
最後に、具体的な対応についてですが、一度の行為でただちに診療拒否するよりも、まずは口頭または文書で警告し、それでも患者が当該行為を止めない場合に診療拒否するほうが「正当な事由」が認められやすくなります。
また、後日、患者から応召義務違反を問題にされた場合に備え、証拠を残すことが肝要です。たとえば、問題のある患者を診療する際には患者と2人だけになることは避け、必ず他の歯科医師やスタッフがいる環境を作ったり、問題ある言動を受けた際には、具体的な内容や、それに対する医院からの注意・警告内容をカルテや他の書面に残しておくことが有益です。
この、診療を拒否できる「正当な事由」については、過去に厚生省が示した行政解釈がいくつかあります(詳しくは『デンタルダイヤモンド』2014年7月号の当コーナーをご覧ください)。
そのなかでは、一般論として「それぞれの具体的な場合において社会通念上健全と認められる道徳的な判断によるべきである」とされており、またいくつか具体例が挙げられていますが、具体例のなかにご質問のケースに類似するものは見当たりません。そのため、ケース・バイ・ケースで判断せざるを得ませんので、以下、私見になりますが検討してみたいと思います。
まず、クレームの多い患者についてですが、クレームが合理的なものである場合にはもちろん、たとえ不合理なものであったとしても、クレームが多いことをもって、ただちに「正当の事由」があるとはいえません。
なぜなら、歯科医師には、歯科診療契約に基づく説明義務・顚末報告義務が課せられています。そうであれば、歯科医師は、これらの義務の履行として、クレームの原因となっている患者の誤解・知識不足を解消すべく説明を尽くすべきであり、単にクレームが多いからといって軽々に診療拒否はできないと考えられるからです。
もっとも、診療契約は法的には準委任契約と解されているところで、準委任契約は委任契約と同じく当事者間の信頼関係を基礎とする契約類型です。実際としても、不可逆的な侵襲行為を伴う歯科治療において、患者との信頼関係の構築は不可欠といえます。
そのため、たとえば歯科医師がいくら簡単な言葉でわかりやすく説明を尽くしても理不尽なクレームを繰り返したり、または謝罪文の交付や土下座による謝罪、慰謝料の支払い請求等、度を超えた要求をする患者に対しては、「正当な事由」が存在するとして、診療を拒否できる場合もあると思います。
次に、女性スタッフにセクハラ(セクシャル・ハラスメント)をする患者についてですが、セクハラにも程度があります。たとえば、女性スタッフの身体に触れる行為は、その態様等により、迷惑防止条例等に違反する犯罪行為となる場合もあります(なお、迷惑防止条例は、北海道では「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」が正式名称ですが、全国にある類似の条例は都道府県ごとに名称が異なるため、一般名称的に迷惑防止条例と呼ばれています)。女性スタッフに犯罪被害に耐えることを強いてまで診療を続けなければならないとは考え難いので、このような場合には「正当な事由」が認められると思われます。
最後に、具体的な対応についてですが、一度の行為でただちに診療拒否するよりも、まずは口頭または文書で警告し、それでも患者が当該行為を止めない場合に診療拒否するほうが「正当な事由」が認められやすくなります。
また、後日、患者から応召義務違反を問題にされた場合に備え、証拠を残すことが肝要です。たとえば、問題のある患者を診療する際には患者と2人だけになることは避け、必ず他の歯科医師やスタッフがいる環境を作ったり、問題ある言動を受けた際には、具体的な内容や、それに対する医院からの注意・警告内容をカルテや他の書面に残しておくことが有益です。
金田英一●銀座誠和法律事務所